≪「製品ライフサイクル理論」概説≫
企業にとって、自社の商材が売れるか売れないかは文字通りの死活問題です。世の中は絶えず変化し続け、一世を風靡した斬新な商材もいつかは昔からある商材になります。言ってみれば、新しく誕生した商材も時の流れの中で老いる、というわけです。
これまでになかったような新しい商材は、世の中に登場したばかりの頃は大きな利益を生まず、世の中で普及していくにしたがって大きな利益を生むようになるというパターンが観察されています。このパターンは経営学で「製品(プロダクト)ライフサイクル(理論)」と呼ばれています。
(出典)Keiei Chiryo ConsultingのHP
製品のライフサイクル(一生)は「導入期」から始まります。導入期は、新しい商材が登場した最初期で、社会(市場や顧客)の間での認知度が低い状態です。導入期の商材を購入する顧客は、後述する「イノベーター理論」で「イノベーター」と呼ばれる、好奇心や探求心が強い方々です。イノベーターは、イノベーター理論において5タイプに分類される顧客全体の2.5%を占めるにすぎない少数者(マイノリティ)です。
このため導入期にある商材の売り上げは小さく、認知度を上げるための広告宣伝などの費用も多く必要となり、あまり利益が出ない時期とされています。
限られた「マニア」の間でしか知られていなかった商材の認知度が上がり、購入者(顧客)が増えてくる時期は「成長期」と呼ばれます。成長期に入った商材は、イノベーター理論で「アーリーアダプター」や「アーリーマジョリティ」と呼ばれるタイプの顧客に購入されるようになります。アーリーアダプターは顧客全体の13.5%、アーリーマジョリティは34%を占めるとされていて、顧客数の多い層です。このため、新しい商材が成長期に入ると売上が増えます。成長期も後半に入ると、アーリーマジョリティに購入されるようになり売上は急激に増加し、宣伝広告などに費用をかける必要も低下するため、利益も急激に大きくなっていきます。
アーリーマジョリティが購入するようになった商材は、新しい商材にさほど興味を示さない「普通の人たち」にも購入されるようになります。それほど新しくなくなってきた商材を買う「普通の人たち」は、顧客全体の34%を占め「レイトマジョリティ」と呼ばれる方々や、顧客全体の16%を占めるとされる「ラガード」と呼ばれる保守傾向の強い方々です。やや保守的なこれらの顧客層に購入されるようになった商材は、もはや新しいというよりは、熟成された「大人」の商材になっており、この時期の商材は「成熟期」に入っているとされます。
そして成熟期にいた商材より良い新商材が登場するなどして、成熟期の商材が求められなくなってくると、その商材は「衰退期」に入ったと位置づけられます。まだ目新しさが残り購入してくれる顧客が多く残されていた成熟期前半では追加投資を押さえて商材を製造販売できるため利益も伸びますが、成熟期後半になると需要が満たされるために商材の売れ行きが悪くなり、利益は減少していきます。衰退期は売れ行きがさらに悪くなり、利益も低下していきます。
≪イノベーター理論/製品普及理論≫
上述した製品ライフサイクルでは、商材が「新しいもの」好きの顧客に受け入れられ、次第に保守的な顧客に購入されるようになる変化が生じています。このように新しい商材が登場した後、「新しい商材」に対する感度が異なる顧客層の間を移動するように普及していく現象には「イノベーター理論」または「製品普及理論」という名前が付けられています。
(出典)Keiei Chiryo ConsultingのHP
イノベーター理論(製品普及理論)では、新しい商材はまず好奇心と探求心が強いイノベーターに購入されるとされています。イノベーターは、好奇心と探求心に溢れ、新しい商材を買って試して、何なら改良もしちゃう、というような方々とされています。
イノベーターの次に新しい商材を買う顧客層である「アーリーアダプター」と呼ばれるタイプは、イノベーターのようにやみくもに(?)新しい商材を買って試すわけではありません。アーリーアダプターは、他社の導入事例や実績がない場合でも自分でいろんな情報を集めた上で、良さそうな商材だと思えばその商材を購入してみます。アーリーアダプターは、ある種の「目利き力」と発信力とを持ち、自分自身で新しい商材を買って使ってよいか否かを判定し、良い商材であれば周囲に勧めたり近年ではSNSなどで「良い」と発信したりするとされています。
アーリーマジョリティは、アーリーアダプターに影響されて比較的早い段階で新しい商材を購入したがるタイプの顧客です。特に奇抜でもなく実利実益重視で判断する、いわゆる「普通の消費者」の中でも流行に敏感なタイプと考えればイメージがしやすいかもしれません。アーリーマジョリティは顧客層の34%を占める多数派(マジョリティ)であるため、アーリーマジョリティに届いた商材は「初期市場」から「普及市場」に移行したと位置づけられます。
「普及市場」にいる顧客は、アーリーマジョリティの他にレイトマジョリティとラガードと呼ばれるタイプに分類されます。レイトマジョリティは保守的で新しい商材は好まず、世の中にしっかりと普及してから購入に動くタイプとされています。レイトマジョリティはリスクを嫌うため、不具合が生じず簡単便利に使えて安価に調達できることを求めます。レイトマジョリティは顧客層の34%を占め、「成熟期」における主要な購買層となります。
ラガードは自分がなじんできた商材からの変更を嫌う保守的傾向が強く、衰退期に入った頃になって購入に動くとされています。
上述した製品ライフサイクル理論とイノベーター理論とは、どちらも「新しい商材は、最初は(少数の)もの好きに買われ、評判が良ければより多くの人に買われるようになる」ということを示しています。そして製品ライフサイクル理論では、数が多いマジョリティ層に受け入れられるようになれば新しい商材は大きな利益をもたらすとされています。
このため、新しい商材がマジョリティ層に受け入れられるか否かが重視されるのですが、イノベーターやアーリーアダプターに受け入れられたのに、マジョリティ層に受け入れられないという現象が観察されています。経営学では、イノベーターやアーリーアダプターが主な顧客となっている市場を「初期市場」、マジョリティ層が顧客となっている市場を「普及市場」と呼ぶことがあります。この初期市場と普及市場との間には越えることが難しい溝「キャズム」があることが知られており、経営学でも実務でもキャズムをいかに超えるかが重視されています。
キャズムについては、別記事を掲載します。
2024/1/19記事掲載