別記事で、新しい商材の人気が出てくると「初期市場」から「普及市場」に移行すると書きました。その記事で書いた通り、初期市場と普及市場とでは顧客層と競合企業とが異なってきます。
簡単に言うと、初期市場では顧客は好奇心が強いマニアックな少数者(マイノリティ)であるのに対し、普及市場の主要顧客は好奇心より実利実益重視のマジョリティになります。また、初期市場に商材を供給するのは通常、小規模な企業ですが、普及市場にはマジョリティ向けのマス市場(マーケット)で事業を展開する大企業が出現します。
そこで今回の記事では、組織の「つくり」という側面から、小企業と大企業の違いについて整理します。
≪大企業、中企業、小企業の“大きさ”と組織構造≫
中小企業庁によれば、中小企業の定義は法律や制度によって異なるものの、中小企業基本法では中小企業かどうかは下表の基準で判断されるそうです。
表に示す通り、小企業というのは、多くても20人程度の人が働く企業です。小企業は人数が少ないので、組織の専門分化やルールも発達しておらず、個人と個人の関係性をベースに「あうん」の呼吸で「できる人ができることをやる」という感じの役割分担がされていることが多いようです。
働く人が10人以下くらいであれば、経理や人事といった管理業務(バックオフィス業務)に専従する人は不要ですが、人数が増えてくると勤怠管理や給料の支払い、経費管理といった「裏方仕事(バックオフィス業務)」も増えてきます。このため、経理や総務人事などを一手に引き受ける専従者が必要となります。
このようにして事業規模が大きくなって人数が増えるに従い組織の専門分化が進みます。専門分化が進んで高度に組織化された大企業は、一般的には下図の右端のようなつくり(組織構造)を持ちます。情報を集めて分析し意思決定をする「経営・戦略部門」が「頭」であり、商材を製造販売する事業部門は商材をつくる「手」やそれを販売する「足」として「頭」からの指令に従って動く、というイメージです。裏方仕事に専従する人たちは「管理部門」「バックオフィス部門」などと呼ばれる部署に所属し、神経や血管のように「頭」と「手足」を繋いでヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を管理し、身体(会社)に巡らせます。
会社の規模が大きく、働く人が多くなって組織分化が進むと、組織同士や従業員同士の役割を決めるルールが整備され、会社もその中の人もルールに従って機械的に動くようになります。役割が明確な複数の組織に分化して決められたルールで動く大規模な会社は、「上(経営層)」の命令に「下(現場)」が従って動くような上意下達の階級構造を持ちやすいとされています。
≪「ティール組織」の5つの組織モデル≫
著名なシンクタンクで組織変革業務に従事していたF.ラリー氏はその著作の中で、5つの組織モデルを設定し、企業組織の進化を論じています。
(出典)HR Trend lab (https://hr-trend-lab.mynavi.jp/column/organizational-development/1509/)
ラリー氏によれば、圧倒的な力を得たトップが力で支配する組織(レッド)から、封建主義的な階級制度が敷かれた組織(アンバー)へと進化し、共通の目標を掲げて目標達成のために効率的合理的に行動する組織(オレンジ)が登場します。赤系の色で示されるこれら3タイプの組織は、基本的に「上に立ち下を支配・管理する者」と「下位にいて上からの指示に従う者」とがいる階級制組織です。
一方、上の図で緑系の色で示されている組織は、一人一人が主体的に考えて動くことを尊び、上下関係や規則に従い機械のように動くのではなく、一人一人が対等(フラット)な関係で仕事を分担しあう「人間らしい」組織であろうとします。
≪企業規模による、組織のつくり・運営スタイルの違い≫
私はこれまで、千人を超える規模の大企業から100人未満の中企業、10人に満たない小企業までさまざまな規模の企業で働いたり、お付き合いしたりしてきました。
私の経験では、大企業や中堅企業は、「頭」が上で「手足」や管理部門を規則に従って機械的に動かすことで効率的・合理的に目的を達成しようとする「オレンジ」や軍隊のような「アンバー」タイプが多いと感じています。一方で、小企業は「仕事を分担するための仕組(組織)」をきっちりと決めずに、個人と個人との関わり合いの中で仕事が分担されていることが多いようです。このため小企業は、個人的な信頼関係や人間関係をベースにしたアットホームな「グリーン」か、経営の責任と権限を一手に握る経営者が「家長」のように君臨する「レッド」が多い印象です。
小企業や緑系の企業は、「仕事上の分担・役割」がきっちりと決まっていないため自由度や柔軟性は高いのですが、部外者や新参者にとっては仕事の流れや全体像を掴めないままいろいろな仕事をすることになり、専門的な知識やスキルを得たり高めたりしづらいと感じるかもしれません。
一方、組織が高度に専門分化された大企業では専門性の「階段」が明確であるため、与えられた仕事をこなせば短期間で基礎的な知識やスキルが得られ、専門性を高めやすいと感じるでしょう。ただし組織が高度に専門分化されていると専門性は高くなっても視野が狭くなり、与えられた仕事をこなす機械の部品のようになってしまうリスクもあります。
このように大企業と小企業、(ティール組織論の)赤系企業と緑系企業にはそれぞれ長短があり、どちらが良い悪いは一概には言えません。ただし、規模が違う企業同士で組織のあり方(つくり)や運営の仕方が違っていることはあまり理解されていないようです。私が知る範囲において、小規模企業が大規模化する場合や小規模企業と大規模企業が関係しあう場合にはしばしばトラブルが生じています。企業規模の違いによって組織のつくりや運営の仕方などが違うことが理解されていれば、こうしたトラブルは多少なりとも減らせるのではないかと私は考えています。
2024/1/21 記事掲載