第1講座で「植物は根を張り、根から養分を吸収する」というお話をしました。植物は基本は土の中に根を張り、土の中の水や養分を吸収するのですが、土を使わず植物を育てることもできます(水耕栽培など)。とはいえ、植物が育つ基本形は「土に根を張り、土の中の水や養分を根から吸収する」です。
そこで、この講座では「土」の基礎知識を学びます。
「土」とは、簡単に言えば「岩石の風化物と有機物が混ざったもの」です。岩石は無機物で、雨風に打たれ日光にさらされる=風化することで岩は小さな粒になります。この岩石(の風化物)の中や上では、さまざまな動植物が暮らしており、岩石の中や上で暮らす動植物のからだが岩石の上に落ちて腐り、岩粒の中に入っていくことで「土」が生まれます。
みなさんも小学校か中学校で習ったように、一口に「岩石(岩/石)」といってもいろいろな種類があります。このため、土の「元」になる岩石の種類の違いによって、「土」もいくつかの種類に分けられます。世界中の土は、現在、大きく12~14種類に分けられており、どの地域の土がどんな種類の土かが調べられ、「土壌図」として一部が公開されています。日本の場合、国立研究開発法人 農業環境技術研究所(「農環研」)が日本の「土壌図」を公開しています。
農環研の土壌図に示されているように、土の種類は地域によって違うのですが、山から谷に向かっても土壌の種類が違ってきます。
このように、さまざまな種類がある土ですが、農業をする際には、土は「物理性」「化学性」「生物性」という3つの観点から評価します。
「物理性」とは、堅さや密度といった「物理的な性質」です。人間で言えば、身長と体重、体脂肪率、といったところでしょうか。
「化学性」とは、pH、養分を保持したり話したりする力といった「化学的な性質」で、人間で言えば体質といったイメージかもしれません。
「生物性」とは、どんな生物がどのくらい、その土の中にいるかを示す指標です。
順番に少し詳しく見てみましょう。
まず、物理性に関しては、土の構造は「気相=気体が入っている隙間」「液相=液体が入っている部分」「固相=土や有機物のような固体」の3つに分けられ、気相:液相:固相=3:3:4が良いと考えられています。
そして、「団粒構造」という構造になっている土は、物理性が「良い土」だとされています。
団粒構造というのは、岩石由来の無機物の粒の間に有機物が入り込んで隙間ができた「小さな団子」同士がくっついて、団子と団子の間にまた隙間ができて、その隙間に空気や水が出たり入ったりしやすくなっている構造です。
団粒構造の反対は「単粒構造」といい、無機物の粒(砂粒)同士がぎっちりとくっつきあって隙間がない構造です。
団粒構造を詳しく見てみると、下の図に示すように砂や粘土(無機物)の粒の間に、「腐植」と呼ばれる有機物や微生物のからだが挟まって隙間ができています。
団粒構造になっている土はフカフカとしていて柔らかく、植物にとっては根が張りやすい上に水はけも水持ちもよく、農作業者にとっても根っこを抜きやすかったり耕しやすかったりする「良い土」です。
化学性については第4講座で掘り下げますが、土の化学性を評価する指標には、有機物の量や窒素、リンといった養分の量やバランスなどがあります。これらの指標は人間でいえば、「コレステロール濃度」「尿酸値」みたいなもので、人間の健康診断と同じように化学性を評価する「土壌診断」をすることで詳しい値を知ることができます。
土の化学性を評価する土壌診断は、5000円程度でできますが、毎日というわけにはいきません。そこで、簡易的には土のpHと電気伝導度(EC)を見ていればよいと言われています。pHは人間で言えば体温のようなもので、ECは血圧のようなものだそうです。
物理性や化学性については、測定法がある程度、標準化されており、さまざまな土壌診断サービスも提供されていて、数千円程度で測定結果を得ることができます。しかし、生物性は長らく評価が難しく、現在、いくつかの評価法が提案されていますが、一検体数万円かかるなど高価で、測定法や測定値の活かし方も定まっておらず、今後の発展が期待される状態です。
一説には、10m×10mの面積の畑地に700kgの土壌生物がいるとも言われており、その95%が目では見えない微生物だと考えられています。微生物には作物の病害の原因になるものもいれば、反対に作物に養分をあげたり病害から作物を守ってくれるものもいます。生物性は、作物にとって「良い生き物」「悪い生き物」がどの程度、いるのかを知る指標ですが、生物性の評価や改善法はまだまだ発展途上です。