第5講座では、肥料のお話をします。肥料というのは、植物が必要とする栄養を与える物質、言ってみれば植物にとっての食事やサプリメントのような物質です。肥料の多くは土の上に置いたり土の中に混ぜたりするため、「土壌に対して使う資材」という意味で「土壌資材」とも呼ばれます。
ただし「土壌資材=肥料」ではありません。土壌資材の中には、①植物に栄養を与える「肥料」(下図の画面左の円)と、②植物に栄養を与えない=肥料ではないけれど、「土」を良くする「土壌改良材(剤)」(下図の画面右の円)とがあり、さらに、③土壌改良もするし肥料にもなる物質(左の円と右の円の重なり部分)もあります。
日本では、肥料に関して「肥料の品質の確保等に関する法律(旧法律名は肥料取締法)」、土壌改良材(剤)について「地力増進法」という法律があります。前者は、品質がしっかりとした肥料が生産され、安心して購入できるように取引されるための法律であり、後者は地力を増進するための取組や制度と、地力を高める土壌改良材の品質を適切に表示するためのルールを定めています。
肥料は、植物が必要とする養分(窒素、リン、カリウムなど)を供給する食事やサプリメントのような物質ですので、肥料を使う側としてはどういった養分がどの程度の量、入っているのか、気になるところです。そこで、肥料については、肥料の製造者がどういった成分がどの程度入っているかを保証していれば、「保証票」をつけて「普通肥料」と呼ぶことができます。ただし肥料といっても、堆肥のように成分保証をすることが難しい物質もあります。このように、肥料になるけれど、その成分を保証することが難しい物質は、「保証票」のない「特殊肥料」として販売されます。一般的には、特殊肥料についても、おおよその成分を表示する「表示」はついていますが、特殊肥料の場合は成分の保証はされていません。
一般論としては、化学的に合成された土壌資材については成分を保証しやすい一方、堆肥や草木灰のようにさまざまな物質が含まれる天然(自然)の産物を土壌資材とする場合は、成分や利き方にムラが生じやすく成分保証が難しくなります。
「化学肥料」と呼ばれる肥料は、肥料となる物質を化学的な方法を用いて原料から精製したり合成したりして、必要な成分が設計した量だけ入っていて、設計した通りに溶け出る=効くように作られています。一方、「有機肥料」と呼ばれる肥料は、有機物を原料として化学的な処理をせずに自然の力で肥料にしているため、化学肥料に比べて成分や利き方がばらつきます。
「化学肥料」と「有機肥料」の違いは、前者は化学的に合成された栄養剤・サプリメント、後者は青汁やブルーベリー、スーパーフードといったような栄養価の高い食べ物との違い、と考えると両者の違いがイメージしやすいかもしれません。
栄養剤やサプリメントの中にも、化学合成されたビタミン剤のようなものもあれば、DHAのように天然物から成分を生成したものもあるように、化学肥料の中にも化学合成した成分でできているものもあれば、天然物を原料としてつくられたものもあります(下図参照)。
「化学肥料」というと、なんとなくよくない、というイメージを持つ方もおられますが、化学肥料を使うか有機肥料を使うかは、「栄養剤やサプリメントを摂るか」「栄養剤やサプリメントに頼らず、身体によい食品だけで身体作り・健康維持をするか」の違いのようなものです。人間でも、食事だけで体調管理や維持が難しい場合は、栄養剤やサプリメントや薬を使えばよいのと同じで、肥料も化学肥料と有機肥料のどちらが良くてどちらがダメ、というのではなく、上述した両者の特性や違いを理解して、土や植物の状態を見ながら上手く使い分けるとよいのではないでしょうか。