第3講座では、土の良し悪しを評価する観点として「物理性」「化学性」「生物性」があるというお話をしました。
土の物理性、化学性、生物性は、「土壌分析(または土壌診断)」により数値で評価できます。土壌分析をしてくれる事業者さんは何社もありますが、最も大規模に実施されているのは、やはりJAさんではないかと思います。
そのJAさんのホームページには、土壌診断サービスの内容や、診断結果に基づく「良い土にするための処方箋」見本などがupされています。
土壌診断は、人間でいうと健康診断のようなものです。人間の健康診断について、「身長」「体重」「体温」「血圧」測定など、日常的に自分でできる項目もあれば、コレステロール値だの尿酸値だの肝機能だの、専門機関で検診を受けないと測定できない項目があるように、土壌診断にも(測定機器を買って)日常的に栽培者が測定できる項目と、専門機関で分析してもらわないと測定できない項目があります。
最近は、「土づくり」は「土づくりの専門家に任せよう」というトレンドになっていて(土づくりの専門家制度についてはこちらなどが参考になります)、栽培者自身が簡易に行う簡易診断と、人間ドッグのように専門機関による診断を受ける「二段構えの診断」が推奨されています(下図)。
上の図に示されている通り、土壌診断は「物理性」「化学性」「生物性」の3軸で行われます。ただし、物理性はそうそう簡単に変わるものではないため、一度測定すればその後、半年や一年ごとに測定されるものではありません。一方、化学性や生物性は常に変わると言ってもいいくらい変化しますが、生物性は現在、安価で簡易に測定することができません。また、生物性を評価したところで評価結果に基づいてすぐに確実に効果が得られる対応法も確立されていないため、生物性診断は一般的に普及していません。
これに対し、化学性の評価は広く普及しており、上に挙げた「処方箋」のように化学性の評価結果に基づいて何をすれば土壌の化学性がよくなるかという対策もある程度、一般化されています。土の化学性評価では、pHとECは必ずといっていいほど測定され、「本格診断」では、CECや窒素、リン、炭素の量や質についてもよく測定されます。
とはいえ、上に挙げたような化学性評価項目がそれぞれどのような意味を持つのか、その値はどの程度であればいいのかは、ガチのプロ農家でない限り、普通はわからないものです。
下の図は、土壌の化学性評価を理解する上で知っておいた方がいい評価項目とその項目の意味・イメージを説明した表です。
上の表に挙げた化学性評価項目のうち、pHとECについては数千円~数万円程度の測定機械が売られており、専門機関に分析してもらうことなく、土づくりのプロや農家自身で測定することができ、農家が自分で実施する簡易診断として測定することが推奨されています。
土壌が酸性に傾いている=pHが低い場合、土の粒子には水素イオンやアルミニウムイオンが多くくっつき、窒素やナトリウム、マグネシウムやカルシウムといった養分が土に保持されにくい状態となっています。
また、EC(電気伝導度)の値が高い土というのは、電気を通す物質=塩類が多く存在している土ということになります。農地の土に多く含まれる「塩類」の多くは、硝酸態窒素であり、ECは硝酸態窒素のたまり具合を見る指標と考えられています。
上の図に示す通り、pHが低く水素イオンだらけの土というのは、人間で言えば養分が吸収しづらく代謝が悪い状態であるため、pHは人間でいう体温のような指標だと説明されています。一方、ECは塩分濃度を表すため、ECが高い状態というのは、塩分の取り過ぎで血圧が高くなっているようなものだと説明されます。
知り合いの土づくりのプロによると、「土づくりは、丈夫で大きな胃袋をつくるようなもの」であり、「肥料をやるのは、栄養バランスが良い食事を、メタボや高血圧、食べすぎなどにならないよう与えるようなもの」といっていました。
第2講座でお話しした通り、土は地域地域で種類=性質が違い、また、どのような植物をどのように育てているかで土の状態は変わってくるため、「良い土づくり」「良い肥料の与え方」は、土の種類や地形、農地の使い方などによって調整する必要があります。
ですから、「土づくり」「施肥」は専門家の指導を受けて行うことが勧められるわけですが、「良い土」は、土の種類や地形に関わらず上の図や表に挙げたような項目が適正範囲にある土であることを栽培者自身が理解しておくことと、土づくりのプロとの良好な連携ができるように思います。