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フォーラム記事
yowono
2024年2月08日
In 実践「経営学」
能力開発の階段:「知る」「わかる」「できる」「伝える」
情報処理技術(IT)の発達により、現代では、江戸時代の1年分の情報が一日で提供されているとも言われています。私たちが触れることができる情報の量はこのように膨大になっていますが、溢れかえる情報を前に、情報を調べない、調べたくない人もいます。例えば下のグラフには、月に一度も検索サイトで検索をしない人が若年世代で20%以上、いることが示されています。
(出典)MarkeZine(https://markezine.jp/article/detail/36719)(https://markezine.jp/article/detail/36719))(https://markezine.jp/article/detail/36719))
私は2000年代初めから10数年間、東京で情報サービス業に従事していたのですが、東京時代の私の周囲や自分自身は、知らない知識や言葉などに出会ったり、何かを知りたいと思ったりすると、すぐに情報検索をして知識を増強することが当たり前でした。しかし、2015年に東京から大阪に引っ越して感じるようになったのが「ネットで検索しない」人は年齢性別を問わず、自分が思っていたよりずっと多い、ということでした。
特に優れた技術を持ち、比較的狭い商圏でよい評価を得ている商材や信用がある事業者さんの場合、付き合いがある顧客や事業者さんからもたらされる情報で充足し、インターネットを介して情報を発信したり収集したりすることにそれほど熱心でないように感じることもあります。こうした方々は、リアルな生活や事業で充足しているので、わざわざ「余計な」情報に触れたり探したりする必要を感じないのかもしれません。
しかし何か困ったことが生じて解決できない、新しいことをやろうとする、現状を変革しなければならない、といった場合は、いままでの経験やいまある知識、スキルだけでは対応ができません。つまり「いままでの経験や知識、スキルでは対応できない」事態に対応するためには新たな能力、つまり人や組織の成長が必要になるわけです。
ここで人が能力を高め育つ段階には「知る」「わかる」「できる」「教える」という段階があるそうです。確かに、知っていればできるわけではなく、例えば、クロールという泳法を知っていたところでクロールができるわけではありません。そこで、クロールという泳法ができるようになるためには、まず、やってみて、上手くできるようになるまで練習する必要があります。
優れた軍人であったと評される山本五十六さんの名言の一つ「やって見せ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば、人は動かじ。」という言葉はまさに、人を育てるために「知る」「わかる」「できる」という段階を踏ませる必要性を述べた言葉と言えるでしょう。
上の絵では、「知る」「わかる」「できる」「教える」という能力開発のプロセスを描いたのですが、この絵に描いた通り、一人前のプロになるには、知識の壁、行動の壁、技量の壁といった壁がある山を登る必要があります。
あなたの知恵や知識は伝えられますか?
ただしすべての人がこのプロセスでプロになるわけでもなく、「知らない」という状態のまま「やってみて」「できるようになった」人もいます。いわゆる叩き上げ、現場上がりの方にこのタイプの方を多く見かけます。このタイプの方は、言語として伝授される知識の取得という段階を経ていないため、「やって見せる」ことはできても「言って聞かせる」ことが上手くないことがあります。また、「言って聞かせる」ことができたとしても、「何をやるのか」を言って聞かせているだけで、何がしかの「プロ」として必要な「知識」は伝授できていないこともあります。
岩尾俊兵氏『世界は経営でできている』に「人間がこれだけ栄えたのは、先人の知恵や知識を活用し」たからであり、先人の知恵や知識を学ぶ「勉強」は人間にとって生き抜くために必須だと書いてあります。岩尾氏は、「勉強」には基礎的な知識を取得することと、取得した知識を実践する時間とが必要であるところ、「すべての知識は全体を部分に分けることができ」、「複数の部分が繋がって初めて全体になる」のだから、さっさと全体観を把握する必要があるのに、全体が把握できないと勉強が進まないという趣旨のことを書いています。
「勉強が進まない」というのは、知識やスキルを伝授される側にとってはストレスが溜まります。特に、膨大な知識を短時間で取得するとことに慣れた人にとっては、「複数の部分が繋がることで全体になる」ように整理や構造化がされていない知識をダラダラと披露されたり、文字にしてくれれば「勉強」できる知識を「やって見せ」られたりすることは苦痛です。
濃厚な師弟関係の中での技の伝授を好む日本では、先人の知恵や知識は「勉強」するより、先人のやっていることを真似ることで知恵や知識を伝授する「徒弟式」のスキル伝承や、「OJT」という名の人材育成法が長らく幅を利かせてきました。しかし、早くスキルを獲得したい人にこうした人材育成法を用いて「習うより慣れろ」といったところで古くて無駄に時間がかかる人材育成しかできないと思われかねません。
「経営/マネジメント」の「勉強」
日本は、企業経営に携わる方々が「叩き上げ」で、「経営」について体系的な知識を持つように「勉強」していないことが少なくありません。経済社会が発展する中、事業活動は複雑になり、企業を経営するためには商材の開発から製造、販売、収益プロセスの開発や管理、さまざまな利害関係者とのコミュニケーションの取り方といったさまざまな知識やスキルが必要になります。それゆえ、いまや企業経営のプロといっても、経営にかかわるさまざまな分野のすべてができる人はいません。けれども、経営を仕事とする以上は、経営にかかわるさまざまな分野の「知識」を持つことが求められ、そのためにはさっさと全体観を把握して知識を取得し、知識を実践する時間を持つことが必要であるように思います。
「叩き上げ」でプロになった方の中には、経営学を体系的に学ぶような勉強を苦手と感じる人も少なくありません。しかし、こうした方々が苦手だったのは学校の勉強であり、多くの社会経験を積んでから、「経営」にかかわるさまざまな知識を体系的に勉強してみると、勉強は意外に面白く感じられるのではないかと私は思っています。
岩尾俊兵氏『世界は経営でできている』は、経営の神髄ともいえる「マネジメント」が人々の暮らしのさまざまな問題の勃発や解消に関係していることを書いており、経営に携わる方でなくとも一読してみると経営学に親しみを感じられるかもしれません。
2024/2/8 記事掲載
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yowono
2024年1月28日
In 実践「経営学」
≪「適正」な売値とは?≫
事業を営む上で「値付け」は難しいと感じます。
商材をつくって提供する事業者にとっては「商材を製造するコスト≦売値」とする必要があります。一方、商材の買い手(顧客)にとっては、「自分が求める価値≧売値」でなければその商材は購入しません。ということは「商材を製造するコスト≦売値≦顧客が求める価値(顧客価値)」となる値付けが「正解」です。
ところで「商材を製造するコスト」というのは客観的に計算され誰にとっても同じ値ですが、「顧客価値」は、顧客の価値観や必要度に応じて異なります。つまり同じ商材であっても、顧客が感じる価値(顧客価値)は「顧客によって違ってしまう」主観的な価値であり、本来は一律に定めることができません。
また、提供される商材の数や質が一定(すなわち供給が一定)であっても、その商材を求める顧客の数、顧客がその商材を必要とする程度、すなわち需要は変化します。供給が需要を上回る供給過剰の状態では顧客が商材を必要とする程度は大きくなりませんが、需要に対して供給が少なければ、顧客が商材を必要とする程度は大きくなることもあります。例えば、コロナ禍の初期、マスクの供給が増えない中で需要が急増した結果、顧客の「マスクが必要だ」という思いが強められ、実際に必要とされる以上に需要が大きくなり、マスクの値段が高騰しました。
≪「人口=需要の自然増加」から「人口=需要の自然減」へ≫
日本は長らく人口増加社会であり、人口が増加することで需要も自然に増加する「供給<需要」という状態が続きました。「供給<需要」の状態では、供給側(商材を製造する側)の都合で「製造コスト≦売値」としても商材は売れて事業者は利益を確保できます。また、1950年代から1980年代くらいまでは、「供給<需要」の状態で工業化が進行して商材が大量生産されるようになり製造コストも低下し売値も低下したため、商材供給側の理屈での「製造コスト≦売値」という値付けも受け入れられてきました。
しかし図に示す通り、1990年代以降、人口増加が止まり需要は自然に増えないにもかかわらず「売れ筋」商材について供給側が供給量を増やす状態が続き「供給≧需要」という状態が生じるようになってきました。
出典:総務省HP(http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc111110.html)(http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc111110.html))
「供給≧需要」という状態では売り手より買い手が優位に立ち、売値を下げなければ商材が売れない状態になります。平成のデフレ、経済の停滞は、人口が増加しない=需要が増えないのに、人口=需要増加の時代のまま供給を増やし続けた事業活動が招いたという側面はあると私は考えています。
≪「安い」のはいいことでしょうか?≫
工業製品は基本的に、製造工程を大規模化、機械化することで安く大量に製造されます。このため「製造コスト≦売値」となる売値も低くできます。しかし、「売値≦顧客価値」、つまり売値を「顧客が感じる価値を反映する値」として考えた場合、「売値が安くないと買われない」という状態は、顧客は、その商材にあまり価値を感じていないと考えることもできます。
日本で日用雑貨や家電製品といった生活必需品が工業的に大量生産されるようになった1950年代から1980年代は、戦後の物不足の記憶があり、顧客は、新しく登場する工業製品に対してこれまでになかった新しさや便利さ、すなわち価値を感じていたと思います。
しかし1990年代以降は、さまざまなモノやサービスが次々と登場し行き渡るようになりました。すなわち、顧客は自分が「欲しい」「必要」と考えるモノやコトをすでに手に入れるか、簡単に手に入れられる状態にあります。このため、多少の目新しさはあったとしてもよほど革新的な商材でなければ「必要」「欲しい」と感じづらい状態になると考えられます。
生活必需品を提供する良心的な事業者さまには、「気軽に買っていただけるように自社製品やサービスを安くしたい」と仰る方も多いのですが、似たような商材が幾種類もある中での「気軽に買える安さ」は、その商材には大した価値がないと思わせてしまう場合があります。
ゴミ収集のお仕事もされている芸人の滝沢秀一さんが、インタビューで「お金持ちはゴミを出さない。けれども、庶民は安いけれど長持ちしない「消え物」を大量にゴミに出していて、おカネを出してゴミを買っているように感じる」と言っておられました。「お客さまに良い品を安く提供したい」と思っておられる事業者さまには申し訳ないのですが、「お客さま」にとっては、その事業者さま以外の事業者さまも同じような、あるいはより魅力的な商材を提供されておられます。そのような状況では、「良い品を気軽に買っていただきたい」と考えて提供されている「気軽に買える安い品」は「大切にする必要はない、気軽に捨てられる品」と見られるかもしれません。
多くの商材の売値が下げられ、物価が上がらなかった平成の日本では、商材を値下げすることで、商材をつくり提供する人や商材をつくり提供する行為そのものの価値を下げていたのかもしれないと私は思うことがあります。
≪価値をつくり、伝える≫
D.アトキンソン氏がご著作『新・生産性立国論』の中で、価格を下げることなど誰でもできる、経営者の役割は、商材や会社の価値を上げることであり、商材や会社の価値を上げるための価値を創造することだと書いておられます。
ごもっともと思いますが、商材の魅力や価値は必ずしもその商材を見たり使ったりすれば誰もがわかるとは限りません。『この音とまれ!』という漫画の中に、主人公たちの琴の演奏には、高度な技術が用いられているけれど、聴いている方には高度なこと、難しいことをやっているようには聴こえない、それが音楽というものだ、というシーンがあります。同じように、シンプルで安く提供できそうに見える商材は、実は試行錯誤を重ねた結果、出来上がったものかもしれません。
このように、パッと見たり使ったりしただけでは価値がわかりづらい商材については、特に「伝えるべき価値」が何でその価値は誰にどうやって伝えるかが大切になります。
優れた商材を小規模に提供している事業者さまの中には、小さな商圏のリアルな口コミや評判で事業ができてしまうため、マーケティングや広報に関心を寄せない方もおられます。しかし、人口が減り商圏を拡げなければいけない今後は、これまでとは違う顧客に、これまでとは違う方法で、自社の商材の魅力や価値を分かりやすく伝えることが必要になります。「これまでとは違う」「よく知らない顧客」に自社の商材の価値を伝える手段としてネットはとても強力です。
ただし、ネットを使って自社の商材の価値を伝える際、稚拙な文章や図画を用いると顧客の評価が低くなる傾向があるそうです。下のグラフは、同じスキンケア化粧品について、一週間、継続使用した前後のアンケート結果を示しているそうです。
AとBとでは商品について伝えた情報と伝え方を下の表のように変えており、その結果、同じ商品なのに商品の評価が違ってしまっています。
(出典)方波見麻紀「知覚品質が属性評価に与える影響~ブランドの使用経験変容効果」
このように、商材を文章や図画で説明する際、お客さまにわかりやすいように、親しみやすいように、簡単な言葉を並べた稚拙な文章や子どもっぽい画図を使ったことで商材の価値を下げてしまう場合があるので注意が必要です。
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yowono
2024年1月21日
In 実践「経営学」
別記事で(https://yowono.wixsite.com/thinkdo/forum/shi-jian-jing-ying-xue/shi-chang-nituite-chu-qi-shi-chang-topu-ji-shi-chang-nojian-nogou-kiyazumuli-lun)、新しい商材の人気が出てくると「初期市場」から「普及市場」に移行すると書きました。その記事で書いた通り、初期市場と普及市場とでは顧客層と競合企業とが異なってきます。
簡単に言うと、初期市場では顧客は好奇心が強いマニアックな少数者(マイノリティ)であるのに対し、普及市場の主要顧客は好奇心より実利実益重視のマジョリティになります。また、初期市場に商材を供給するのは通常、小規模な企業ですが、普及市場にはマジョリティ向けのマス市場(マーケット)で事業を展開する大企業が出現します。
そこで今回の記事では、組織の「つくり」という側面から、小企業と大企業の違いについて整理します。
≪大企業、中企業、小企業の“大きさ”と組織構造≫
中小企業庁によれば、中小企業の定義は法律や制度によって異なるものの、中小企業基本法では中小企業かどうかは下表の基準で判断されるそうです。
表に示す通り、小企業というのは、多くても20人程度の人が働く企業です。小企業は人数が少ないので、組織の専門分化やルールも発達しておらず、個人と個人の関係性をベースに「あうん」の呼吸で「できる人ができることをやる」という感じの役割分担がされていることが多いようです。
働く人が10人以下くらいであれば、経理や人事といった管理業務(バックオフィス業務)に専従する人は不要ですが、人数が増えてくると勤怠管理や給料の支払い、経費管理といった「裏方仕事(バックオフィス業務)」も増えてきます。このため、経理や総務人事などを一手に引き受ける専従者が必要となります。
このようにして事業規模が大きくなって人数が増えるに従い組織の専門分化が進みます。専門分化が進んで高度に組織化された大企業は、一般的には下図の右端のようなつくり(組織構造)を持ちます。情報を集めて分析し意思決定をする「経営・戦略部門」が「頭」であり、商材を製造販売する事業部門は商材をつくる「手」やそれを販売する「足」として「頭」からの指令に従って動く、というイメージです。裏方仕事に専従する人たちは「管理部門」「バックオフィス部門」などと呼ばれる部署に所属し、神経や血管のように「頭」と「手足」を繋いでヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を管理し、身体(会社)に巡らせます。
会社の規模が大きく、働く人が多くなって組織分化が進むと、組織同士や従業員同士の役割を決めるルールが整備され、会社もその中の人もルールに従って機械的に動くようになります。役割が明確な複数の組織に分化して決められたルールで動く大規模な会社は、「上(経営層)」の命令に「下(現場)」が従って動くような上意下達の階級構造を持ちやすいとされています。
≪「ティール組織」の5つの組織モデル≫
著名なシンクタンクで組織変革業務に従事していたF.ラリー氏はその著作の中で、5つの組織モデルを設定し、企業組織の進化を論じています。
(出典)HR Trend lab (https://hr-trend-lab.mynavi.jp/column/organizational-development/1509/)(https://hr-trend-lab.mynavi.jp/column/organizational-development/1509/))(https://hr-trend-lab.mynavi.jp/column/organizational-development/1509/))
ラリー氏によれば、圧倒的な力を得たトップが力で支配する組織(レッド)から、封建主義的な階級制度が敷かれた組織(アンバー)へと進化し、共通の目標を掲げて目標達成のために効率的合理的に行動する組織(オレンジ)が登場します。赤系の色で示されるこれら3タイプの組織は、基本的に「上に立ち下を支配・管理する者」と「下位にいて上からの指示に従う者」とがいる階級制組織です。
一方、上の図で緑系の色で示されている組織は、一人一人が主体的に考えて動くことを尊び、上下関係や規則に従い機械のように動くのではなく、一人一人が対等(フラット)な関係で仕事を分担しあう「人間らしい」組織であろうとします。
≪企業規模による、組織のつくり・運営スタイルの違い≫
私はこれまで、千人を超える規模の大企業から100人未満の中企業、10人に満たない小企業までさまざまな規模の企業で働いたり、お付き合いしたりしてきました。
私の経験では、大企業や中堅企業は、「頭」が上で「手足」や管理部門を規則に従って機械的に動かすことで効率的・合理的に目的を達成しようとする「オレンジ」や軍隊のような「アンバー」タイプが多いと感じています。一方で、小企業は「仕事を分担するための仕組(組織)」をきっちりと決めずに、個人と個人との関わり合いの中で仕事が分担されていることが多いようです。このため小企業は、個人的な信頼関係や人間関係をベースにしたアットホームな「グリーン」か、経営の責任と権限を一手に握る経営者が「家長」のように君臨する「レッド」が多い印象です。
小企業や緑系の企業は、「仕事上の分担・役割」がきっちりと決まっていないため自由度や柔軟性は高いのですが、部外者や新参者にとっては仕事の流れや全体像を掴めないままいろいろな仕事をすることになり、専門的な知識やスキルを得たり高めたりしづらいと感じるかもしれません。
一方、組織が高度に専門分化された大企業では専門性の「階段」が明確であるため、与えられた仕事をこなせば短期間で基礎的な知識やスキルが得られ、専門性を高めやすいと感じるでしょう。ただし組織が高度に専門分化されていると専門性は高くなっても視野が狭くなり、与えられた仕事をこなす機械の部品のようになってしまうリスクもあります。
このように大企業と小企業、(ティール組織論の)赤系企業と緑系企業にはそれぞれ長短があり、どちらが良い悪いは一概には言えません。ただし、規模が違う企業同士で組織のあり方(つくり)や運営の仕方が違っていることはあまり理解されていないようです。私が知る範囲において、小規模企業が大規模化する場合や小規模企業と大規模企業が関係しあう場合にはしばしばトラブルが生じています。企業規模の違いによって組織のつくりや運営の仕方などが違うことが理解されていれば、こうしたトラブルは多少なりとも減らせるのではないかと私は考えています。
2024/1/21 記事掲載
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yowono
2024年1月19日
In 実践「経営学」
≪価格競争とコストリーダーシップ戦略は別モノ≫
今回の記事は、時事ネタ始まりです。2024/1/15付日経新聞朝刊にバーゲンセールが減っているという記事が掲載されていました。記事の中でこれまでは「他社に負けないように全方位で作っていた」という、大手アパレルメーカー取締役のコメントが紹介されていました。
バーゲンセールは特定期間に商品を値引きして売る販売方法です。過去30年間、物価が上昇しなかったと言われる日本では、これまでA社が値下げしたらB社も値下げするという値下げ競争があちこちで繰り広げられていました。
「安さで顧客を取り合う競争」は、経営学で「コストリーダーシップ戦略」と名付けられている戦略と見た目は同じです。ただし「コストリーダーシップ戦略」は、「市場で大きなシェアを握る独占企業になる」ことを目指すための手段の一つであり、価格競争をする目的は「他社に売り負けないようにする」のではなく、「他社の顧客を奪って市場シェアを拡大して市場独占に近づく」ことです。
一方、「他社が値下げしているから負けないように自社も値下げする」ことは、「ベルトラン競争」と呼ばれます。経営学では、ゲーム理論』と呼ばれる理論において、ベルトラン競争に陥ると価格競争し続けて企業は儲からなくなることが説明されています。
≪コストリーダーシップ戦略とIO型の競争環境~企業は独占を目指す≫
「コストリーダーシップ戦略」は、IO型の競争環境にフィットしやすいそうですが、別記事に(https://yowono.wixsite.com/thinkdo/forum/hui-she-jing-ying/jing-zheng-noxing-towen-hua-feng-tu-ioxing-jing-zheng-hari-ben-nihuitutosinikui)書いた通りIO型の競争というのは、基本的には独占企業になることを目指す競争です。企業が独占企業になることを目指す理由は、経営学では、産業組織論(IO=Industrial organization理論)またはSCP理論(structure-conduct-performance)と呼ばれる有名な理論で説明できます。
IO理論(またはSCP理論、以下、IO理論)というのは、「儲かる構造の産業(市場)」と「儲からない構造の産業(市場)」とがあることと、「儲かる構造」と「儲からな構造」とができるメカニズム(条件)を説明した理論です。IO理論では「市場に参入障壁がなく、同じ商品を提供する無数の企業が存在して顧客を取り合うという完全競争の状態では企業はまったく儲からない」ということが示されています。反対に、「自社と同じ商品を提供する他社が存在せず、市場を独占している状態」であれば企業は儲けまくることができるとされています。
企業が市場で大きなシェアを握る独占企業を目指すのは、市場を独占するほど儲けやすくなるためです。別記事で(https://yowono.wixsite.com/thinkdo/forum/hui-she-jing-ying/jing-zheng-noxing-towen-hua-feng-tu-ioxing-jing-zheng-hari-ben-nihuitutosinikui)書いたとおり米国(や欧州、グローバル市場)はIO型の競争環境になりやすい一方、日本はチェンバレン型の競争環境ができやすい文化風土や制度があります。
チェンバレン型の競争というのは、競合企業同士が自社の特徴を反映した商材をつくり自社の特徴を好む顧客を引き寄せるタイプの競争です。例えば、炊飯器市場では、保温瓶技術がある象印やタイガーは炊き上げ力勝負、多機能家電が特異なパナソニックや東芝は機能充実といった特徴で棲み分けをするチェンバレン型の競争が行われていると見ることができます。
≪チャットGPTさんに聞いてみた≫
このようにチェンバレン型の競争環境になっている状況では、複数の競合企業が差別化した商材で顧客を引き寄せ合うため独占企業は出現しづらく、独占を目指して価格を下げるコストリーダーシップ戦略はフィットしがたいと考えられます。
この点をチャットGPTさんに聞いてみたのが下記の「会話」です。
私:チェンバレン型の競争環境ができている状況で、市場シェアを獲得するためにコストリーダーシップ戦略をとることはどのように評価されますか。
ChatGPT:チェンバレン型の競争環境では、企業が市場シェアを拡大するためにコストリーダーシップ戦略をとることは一般的には難しいとされています。
コストリーダーシップ戦略は通常、大量生産や規模の経済性を活かし、価格競争において他社との差別化を図るために採用されます。しかし、チェンバレン型の環境では、企業は価格以外の要因で差別化を図る必要があり、そのためには商品やサービスの独自性やブランドの構築が重要です。
≪同調あって戦略なし≫
本記事の冒頭で紹介した日経新聞の記事では、売り上げ拡大に向けて「右へならえ」で続いてきたバーゲンセールが消えつつあると書かれており、同じ日の日経新聞の別のページには日本企業が価格設定をする際には競合企業と同様の行動を取りやすいことが書かれています。
他社がバーゲンセールをして売り上げを拡大したから自社も、他社がバーゲンセールを止めて売り上げ拡大より利益率を高めたから自社も、他社が値下げしたから自社も、他社が値上げしたから自社も、という「同調」は、企業の活動としては自社のことも自社を取り巻く環境のことも何ら、自分で考え、自分で決めていないに等しいのではないかと思います。
そもそも「他社が値下げしたから自社も値下げする」というのはベルトラン競争に陥るということであり、戦略的な競争ではありません。そしてベルトラン競争(ゲーム理論)が教えているのは、「企業は競争するほど儲からない」ということです。一方で企業が競争しなくなると「他社より優れた商材を提供しよう」という努力を怠りがちになるため、現在の資本主義諸国では企業が「健全な競争」をすることを促す制度・ルールが敷かれています。例えば、市場の独占を目指してコストリーダーシップ戦略を講じることは健全な戦略ですが、政財界の有力者に働きかけたり少数の事業者同士で示し合わせたりして市場を独占しようとすることは贈賄や談合として禁止されています。
欧米と異なりIO型競争環境が形成されづらい日本では、市場の50%を超えるようなシェアを握る独占企業は同情しづらく、大きくても10~20%程度のシェアを持つ3~5社程度の企業同士が競い合うチェンバレン型競争環境を形成している業界が多くなります。チェンバレン型競争環境ができている場合、価格競争をしたところで市場シェアを拡大して独占に近づく「コストリーダーシップ戦略」が功を奏することは難しいことは、チャットGPTさんが教えてくれた通りです。
すなわちチェンバレン型競争環境が構築され、IO型競争環境が構築できる見通しや策略に乏しい状態で他社が価格を下げたから自社も価格を下げれば、ベルトラン競争に陥って利益が得られなくなることは経営理論から示唆されています。チェンバレン型競争環境では、チャットGPTさんが教えてくれた通り、他社が価格を下げてきた場合、自社は価格を下げるのではなく、自社の特徴を際立たせて個性(差別化)で競うことが王道でしょう。
もちろん王道が正解というわけではありませんが、王道から逸れて経営理論から悪手であることが示唆されている手を取るのであればよほどの工夫が必要でしょう。そうした工夫もなく「他社がやってるから自社も」は、何もしなくても市場が拡大してくれる人口増加の時代や成長期の市場であれば通用したかもしれませんが、人口減少の時代や成熟期を過ぎて顧客が減ってきている状況で経営層が言う台詞としてはいかがでしょうか。
≪戦略を講じて遂行できますか≫
2024年1月16日付日経新聞にアマゾン・ドット・コムはクラウドサービスの草分けであり、赤字覚悟の投資を重ねてコンピューターサービス(クラウドサービス)という新市場を創出した、という文章がありました。2023年時点でのクラウドサービスの世界市場において、アマゾン・ドット・コムのシェアは32%、二番手はマイクロソフトが23%で両社でグローバル市場の半分以上のシェアを握っています。つまり、アマゾンは、赤字覚悟の投資を重ねながら、グローバル市場を独占できる構造を構築してきたと見ることができます。
このようなアマゾンの投資戦略は赤字が先行したとしても、大きなシェアを握って自社が儲けやすい市場構造にするという目論みがあって採用された戦略なのでしょう。アマゾンは1994年に設立され、創業初期は7期連続の赤字、2000年代に入っても赤字かわずかな黒字という時期を続けてきたことが知られています。それでもアマゾンが成長できたのは、戦略を描き、創業者を含む経営関係者や投資家もそれを理解して戦略が功を奏するまでの長い道のりを一歩一歩、進んで行ったからなのだろうと私は推測します。
顧みて日本の起業家その参謀を含む経営層、さらには投資家や起業支援する方々のどれほどの方々がこうした戦略を理解し、講じ、遂行することができたのか、できるのでしょうか。これまでできていなかったのであれば、それはむしろ、今後、この点を改善することで停滞の30年から抜け出せる可能性がある、という明るい材料となると私は考えています。
今後、日本(の企業)が生き残っていくためには、そもそも日本はIO型の競争環境が構築しづらくチェンバレン型の競争環境が形成されやすい点で米国と同じではないことを念頭に、「米国で功を奏したやり方は日本では功を奏さない」可能性を熟慮することが大切であると私は考えています。また、現在やこれからのように、変化が大きく不確実な環境に向いているのは、IO型やチェンバレン型の競争ではなく、シュンペーター型の競争と言われています。
日本が直面していていつか世界の国々も直面することになる人口減少社会の中で、企業が生き残るためにどうすればよいか、答えがないからこそ、既知の「パターン」を知ることは無駄な失敗を避けて前に進む助けとなると私は考えています。
2024/1/19 記事掲載
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yowono
2024年1月19日
In 実践「経営学」
≪初期市場から普及市場へ≫
別記事で(https://yowono.wixsite.com/thinkdo/forum/shi-jian-jing-ying-xue/shi-chang-nituite-xin-siishang-cai-nopu-ji-togu-ke-notaipu-zhi-pin-raihusaikuruli-lun-toinobetali-lun-gai-shuo)、新しく登場した商材はマニアックな少数者(イノベーター)に購入され、世の中に知られるにしたがって、「マジョリティ」と呼ばれる多くの顧客に購入されるようになるという「製品普及理論(イノベーター理論)」を紹介しました。
世の中に知られていない商材に好奇心を持って購入する顧客はイノベーターとアーリーアダプターと呼ばれるタイプです。イノベーターとアーリーアダプターは顧客全体の16%を占めるだけの少数者(マイノリティ)であり、顧客層全体の残りの86%はまだ顧客になっていません。そこで、新商材の中心的な顧客がイノベーターなどのマニアックな少数者である場合、その新商材は「初期市場」の段階にある、と言われることがあります。初期市場は、別記事で紹介した製品ライフサイクル理論で「導入期」と呼ばれる状態に新商材が留まっている段階の市場の名称とも言えます。
(出典)B to B マーケティングの教科書 (https://btobmarketing-textbook.com/product-life-cycle/)(https://btobmarketing-textbook.com/product-life-cycle/))(https://btobmarketing-textbook.com/product-life-cycle/))
少数の「新しもの好き」の間でしか知られず購入されなかった新商材が、顧客層全体の34%を占めるとされる「アーリーマジョリティ」と呼ばれるタイプの顧客に知られ購入されるようになると、製品ライフサイクル理論ではその新商材は「成長期」に入ったとされます。
「成長期」に入った新商材は、初期市場の主な顧客とアーリーマジョリティとを合わせると顧客層全体の50%が顧客になってくるほどに世の中に普及してきたことになります。そこで、アーリーマジョリティと呼ばれるタイプの顧客に購入されるようになった新商材は、「初期市場」から「普及市場」に移行したと位置づけられます。
≪初期市場と普及市場の違い≫
初期市場の主たる顧客層であるイノベーターやアーリーアダプターは好奇心が旺盛です。このため、購入した新商材が期待したほどでもなかったとしても、新商材を自分で試して改善策を考えたり良しあしを判断したりすることに価値を感じます。
一方で普及市場の主たる顧客層は、初期市場の主顧客のように「新しさ」や「好奇心を満たすこと」に価値を置きません。例えば普及市場の最初の顧客層とされるアーリーマジョリティは、流行に敏感で新しい商材に興味を示します。しかしこのタイプは基本的に実利実益重視であり、期待外れの商品は買いたくないと考える「普通の消費者」です。そこで他人の評価や世間の評判を参考にしますが、流行に敏感なので、特にアーリーアダプターの評価を参考にするとされています。
レイトマジョリティは、保守的で新しい商材には懐疑的、抵抗感を覚えるタイプであるため、不具合が発生したり期待外れを買う羽目になったりすることがないほど、世の中に浸透した商材を求めます。中には、新しい商材をどうしても受け入れないほど保守的な方もおられ、イノベーター理論ではそうした方を「ラガード」と呼んでいます。
このように初期市場と普及市場とでは主たる顧客のタイプが異なります。このため、初期市場に受け入れられた新規な商材でも、普及市場の顧客には受け入れられないことが起こりえます。この結果、初期市場に浸透したのに普及市場に入れないという事態がしばしば生じており、初期市場と普及市場の間には越えがたい溝(キャズム)がある、と言われています(キャズム理論)。
≪市場規模と競合相手(プレイヤー)≫
初期市場と普及市場とでは、顧客のタイプが異なるだけでなく、顧客の数=市場の規模も大きく異なります。私見ですが、下図に示すように、市場規模が10~20億円程度になってなお成長余地があると考えられる新市場には、初期市場に商材を投入した企業に比べて規模が大きな企業が参入してくるようです。
小規模な事業者と大規模な事業者とでは、事業や組織のつくりや動かし方が異なります。一般的には小規模な事業者は「顔が見える」程度の人数(100人未満)規模であるのに対し、大規模な事業者(大企業)は数千人から数万人が働く組織であり、年間数千億円以上の売り上げを得る必要があります。このため大規模企業は基本的に「マスマーケット」と呼ばれる、人数が多いマジョリティ顧客向けの市場(普及市場)で事業を展開します。
以上を整理すると、新しい商材はまず、好奇心が強い少数者を顧客層として、売り上げ(市場規模)も小さく、競合企業(プレイヤー)には大企業が少ない(いない)「初期市場」に登場します。新商材が「斬新さや個性よりは実利重視」の「普通の顧客」に受け入れられる、つまり普及市場に入ると、売上(市場規模)が大きくなりますが、中堅企業や大企業が競合になってきます。
初期市場と普及市場とは、上述したように顧客のタイプ(関心事)や競合相手が異なっています。「キャズム」というのは、初期市場と普及市場とのこうした「違い」に対応できなないために発生することが多いと考えられます。
「キャズム」を超える方法は、経営学や実務現場でさまざまに検討されていますが、本フォーラムにおいても別記事で検討したいと思います。
2024/1/19 記事掲載
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yowono
2024年1月18日
In 実践「経営学」
≪「製品ライフサイクル理論」概説≫
企業にとって、自社の商材が売れるか売れないかは文字通りの死活問題です。世の中は絶えず変化し続け、一世を風靡した斬新な商材もいつかは昔からある商材になります。言ってみれば、新しく誕生した商材も時の流れの中で老いる、というわけです。
これまでになかったような新しい商材は、世の中に登場したばかりの頃は大きな利益を生まず、世の中で普及していくにしたがって大きな利益を生むようになるというパターンが観察されています。このパターンは経営学で「製品(プロダクト)ライフサイクル(理論)」と呼ばれています。
(出典)Keiei Chiryo ConsultingのHP
製品のライフサイクル(一生)は「導入期」から始まります。導入期は、新しい商材が登場した最初期で、社会(市場や顧客)の間での認知度が低い状態です。導入期の商材を購入する顧客は、後述する「イノベーター理論」で「イノベーター」と呼ばれる、好奇心や探求心が強い方々です。イノベーターは、イノベーター理論において5タイプに分類される顧客全体の2.5%を占めるにすぎない少数者(マイノリティ)です。
このため導入期にある商材の売り上げは小さく、認知度を上げるための広告宣伝などの費用も多く必要となり、あまり利益が出ない時期とされています。
限られた「マニア」の間でしか知られていなかった商材の認知度が上がり、購入者(顧客)が増えてくる時期は「成長期」と呼ばれます。成長期に入った商材は、イノベーター理論で「アーリーアダプター」や「アーリーマジョリティ」と呼ばれるタイプの顧客に購入されるようになります。アーリーアダプターは顧客全体の13.5%、アーリーマジョリティは34%を占めるとされていて、顧客数の多い層です。このため、新しい商材が成長期に入ると売上が増えます。成長期も後半に入ると、アーリーマジョリティに購入されるようになり売上は急激に増加し、宣伝広告などに費用をかける必要も低下するため、利益も急激に大きくなっていきます。
アーリーマジョリティが購入するようになった商材は、新しい商材にさほど興味を示さない「普通の人たち」にも購入されるようになります。それほど新しくなくなってきた商材を買う「普通の人たち」は、顧客全体の34%を占め「レイトマジョリティ」と呼ばれる方々や、顧客全体の16%を占めるとされる「ラガード」と呼ばれる保守傾向の強い方々です。やや保守的なこれらの顧客層に購入されるようになった商材は、もはや新しいというよりは、熟成された「大人」の商材になっており、この時期の商材は「成熟期」に入っているとされます。
そして成熟期にいた商材より良い新商材が登場するなどして、成熟期の商材が求められなくなってくると、その商材は「衰退期」に入ったと位置づけられます。まだ目新しさが残り購入してくれる顧客が多く残されていた成熟期前半では追加投資を押さえて商材を製造販売できるため利益も伸びますが、成熟期後半になると需要が満たされるために商材の売れ行きが悪くなり、利益は減少していきます。衰退期は売れ行きがさらに悪くなり、利益も低下していきます。
≪イノベーター理論/製品普及理論≫
上述した製品ライフサイクルでは、商材が「新しいもの」好きの顧客に受け入れられ、次第に保守的な顧客に購入されるようになる変化が生じています。このように新しい商材が登場した後、「新しい商材」に対する感度が異なる顧客層の間を移動するように普及していく現象には「イノベーター理論」または「製品普及理論」という名前が付けられています。
(出典)Keiei Chiryo ConsultingのHP
イノベーター理論(製品普及理論)では、新しい商材はまず好奇心と探求心が強いイノベーターに購入されるとされています。イノベーターは、好奇心と探求心に溢れ、新しい商材を買って試して、何なら改良もしちゃう、というような方々とされています。
イノベーターの次に新しい商材を買う顧客層である「アーリーアダプター」と呼ばれるタイプは、イノベーターのようにやみくもに(?)新しい商材を買って試すわけではありません。アーリーアダプターは、他社の導入事例や実績がない場合でも自分でいろんな情報を集めた上で、良さそうな商材だと思えばその商材を購入してみます。アーリーアダプターは、ある種の「目利き力」と発信力とを持ち、自分自身で新しい商材を買って使ってよいか否かを判定し、良い商材であれば周囲に勧めたり近年ではSNSなどで「良い」と発信したりするとされています。
アーリーマジョリティは、アーリーアダプターに影響されて比較的早い段階で新しい商材を購入したがるタイプの顧客です。特に奇抜でもなく実利実益重視で判断する、いわゆる「普通の消費者」の中でも流行に敏感なタイプと考えればイメージがしやすいかもしれません。アーリーマジョリティは顧客層の34%を占める多数派(マジョリティ)であるため、アーリーマジョリティに届いた商材は「初期市場」から「普及市場」に移行したと位置づけられます。
「普及市場」にいる顧客は、アーリーマジョリティの他にレイトマジョリティとラガードと呼ばれるタイプに分類されます。レイトマジョリティは保守的で新しい商材は好まず、世の中にしっかりと普及してから購入に動くタイプとされています。レイトマジョリティはリスクを嫌うため、不具合が生じず簡単便利に使えて安価に調達できることを求めます。レイトマジョリティは顧客層の34%を占め、「成熟期」における主要な購買層となります。
ラガードは自分がなじんできた商材からの変更を嫌う保守的傾向が強く、衰退期に入った頃になって購入に動くとされています。
上述した製品ライフサイクル理論とイノベーター理論とは、どちらも「新しい商材は、最初は(少数の)もの好きに買われ、評判が良ければより多くの人に買われるようになる」ということを示しています。そして製品ライフサイクル理論では、数が多いマジョリティ層に受け入れられるようになれば新しい商材は大きな利益をもたらすとされています。
このため、新しい商材がマジョリティ層に受け入れられるか否かが重視されるのですが、イノベーターやアーリーアダプターに受け入れられたのに、マジョリティ層に受け入れられないという現象が観察されています。経営学では、イノベーターやアーリーアダプターが主な顧客となっている市場を「初期市場」、マジョリティ層が顧客となっている市場を「普及市場」と呼ぶことがあります。この初期市場と普及市場との間には越えることが難しい溝「キャズム」があることが知られており、経営学でも実務でもキャズムをいかに超えるかが重視されています。
キャズムについては、別記事を掲載します。
2024/1/19記事掲載
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yowono
2024年1月16日
In 実践「経営学」
別記事で(https://yowono.wixsite.com/thinkdo/forum/shi-jian-jing-ying-xue/shi-chang-nokoto-shui-noshang-cai-tobing-berareteshui-nimai-rimasuka)、企業にとって、自社が事業をする「市場」をどのように設定するかによって、事業の成長余地や競合などが変わることを書きました。
その記事では、「クラウド会計サービス」という新しい商材を提供する新興事業者同士は、「クラウド会計サービス市場」では競合という関係になる一方、「PC利用型会計サービス」というより大きな市場に目を向ければ、「インストール型」サービス提供事業者を共通の敵とする仲間ともなりうるという話をしました。
そこで今回の記事では、事業者同士の競争について、経営理論を紹介しながら書いてみたいと思います。
≪競争すればするほど儲からない≫
企業にとって、同じ市場で似たような商材を売る他社は基本的に競争相手となります。企業は競争相手がいると競争相手に負けないようにより魅力的な商材を提供しようと努力します。企業が努力してより魅力的な商材を提供することは顧客にとって好ましいことであるため、現在の資本主義社会では基本的に企業間競争が生じることを是としています。
そこで企業はさまざまなスタイルで競合企業と顧客獲得を競い合います。経営学では企業が繰り広げるさまざまな顧客獲得競争のスタイルについて研究がされ、「IO型の競争」「チェンバレン型の競争」「シュンペーター型の競争」といった競争の型があることが見出されています(これら3つの競争の型については別記事を(https://yowono.wixsite.com/thinkdo/forum/hui-she-jing-ying/jing-zheng-noxing-towen-hua-feng-tu-ioxing-jing-zheng-hari-ben-nihuitutosinikui)書いているのでよろしければご覧ください)。
こうした競争の型のうちIO型の競争では、独占企業になることを目的として大きなシェアを握るためにさまざまな戦略(例えばコストリーダーシップ戦略など)が講じられます。ではなぜ、独占企業になることを目指すのかと言えば、「企業同士が競争すればするほど儲からない」ためです。経営学ではさまざまな研究成果として「企業同士は競争するほど儲からない」ことを示す経営理論が提示されており、中でも「ゲーム理論」が有名です。
経営学を学ぶ学徒でない限り、ゲーム理論やこれに類する理論について名称や内容を覚える必要はありませんが、経営に携わる人であれば数々の経営理論が「企業は競争するほど儲からない」ことを示していることは知っておいた方がよいと私は考えています。
≪無駄に競争していませんか?≫
というのも、日本はどうも小さなコップ(市場)の中で無駄に競争する傾向が強いように感じるためです。
例えば、別記事で(https://yowono.wixsite.com/thinkdo/forum/shi-jian-jing-ying-xue/shi-chang-nokoto-shui-noshang-cai-tobing-berareteshui-nimai-rimasuka)㈱マネーフォワード(以下、MF)とfreee㈱とは競合同士と書きましたが、両社は相手製品が自社製品を真似しているとして特許権侵害で争ったこともあります。両社間の特許権侵害訴訟は2016年にfreeeがMFを訴えたことから始まりました。freeeは2012年7月設立で2013年3月にクラウド会計サービスをリリースしているのに対し、MFは2012年5月設立、2013年11月クラウド会計サービスをリリースしているので、freeeにとっては、自社商材と似たような商材を後出ししてきたMFを排斥すべき競合と考える気持ちはわかります。
しかし上述した通り、経営理論(例えばゲーム理論)が示すのは「競争するほど儲からない」です。また入山章栄氏著『世界標準の経営理論』では「エコロジーベースの進化理論」と称する経営理論が紹介されています。
「エコロジーベースの進化理論」は大まかに言えば「複数の商材が競合する場合、どういった基準で選ばれるのか」を説明します。この理論によれば、“商材の周囲にいる人たちから「いい」と認められる(「正当性の獲得」)”場合や、“同質で固まる”場合に、競合する商材から選ばれやすくなるそうです(上の図参照)。
別記事で(https://yowono.wixsite.com/thinkdo/forum/shi-jian-jing-ying-xue/shi-chang-nokoto-shui-noshang-cai-tobing-berareteshui-nimai-rimasuka)書いた通り㈱マネーフォワード(以下、MF)とfreee㈱とが競合しているのは「クラウド会計サービス」市場ですが、より大きな「個人事業主向け会計サービス」市場では、「PC利用しないサービス」「PC利用のインストール型サービス」「PC利用のクラウド型サービス」といったサービス同士が競合していると見ることもできます。「クラウド会計サービス」は、「個人事業主向け会計サービス」としてはもっとも新しいサービスであり、まだ知名度が十分でありません。
そこで「競争するほど儲からない」という「ゲーム理論」と「エコロジーベースの経営理論」とを持ち出すと、両社は新しくまだ小さい(=成長余地のある)クラウド会計サービス市場で競い合うより、クラウド型会計サービス事業者として固まることで、「個人事業主向け会計サービス市場」において選んでもらう戦略を採る方が賢明であったようにも思えます。もちろん世の中は理論通りに動くわけではありませんし、MFとfreeeとの特許訴訟の背景も私は知りませんが、小さなベンチャー企業が限られたおカネや時間を、経営理論に照らしてみれば悪手とされる行い(競い合うこと)に使うのはもったいない、と私は思います。
新しく優れた商材を開発し事業化する起業家の方々は、必ずしも「競合他社とどう競争するか」という事業戦略に長けているわけではなく、事業戦略や経営学にそもそも興味を持たない方もおられます。そこで、そうした起業家の方々を支える「参謀」が求められます。
そうした参謀の方々や、参謀を必要とされる起業家の方々にとって、こちらのフォーラム記事が自社の事業活動に「使える」経営学の知見やその使い方のヒントを提供できるものであれば幸いです。
2024/1/16記事掲載
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yowono
2024年1月16日
In 実践「経営学」
≪“市場”における顧客獲得競争と市場の範囲≫
別記事の(https://yowono.wixsite.com/thinkdo/forum/hui-she-jing-ying/jing-zheng-noxing-towen-hua-feng-tu-ioxing-jing-zheng-hari-ben-nihuitutosinikui)冒頭でも書いたことなのですが、会社が自社の商品やサービス(商材)を売る場合、通常は他社が似たような商材を売っています。自社と似た商材を売る他社はお客さま(顧客)を取り合うという意味で「競合企業」と呼ばれ、競合企業同士が顧客獲得競争を繰り広げる範囲を経営学では「市場」と呼びます。例えば、スシロー、くら寿司、かっぱ寿司は「回転ずし市場」で顧客獲得競争をする競合企業同士です。
ここで「市場」をどの範囲と考えるかで、市場の規模や顧客層、競合企業などが変わります。例えば個人事業主が会計業務をするためのサービスの一つに、パソコン(PC)を使って会計処理をするための情報処理(IT)ツールがあります。PCで会計処理をするITツールには、大きく分けてアプリやソフトウェアをPCにインストールする「インストール型」(下の右側円グラフの薄オレンジ色の部分)と、インストール不要でITツールを提供する事業者が運営するウェブサイトにログインする「クラウド型」(下の右側円グラフの赤色の部分)とがあります。
(出典)株式会社 MM総研 クラウド会計ソフトの利用状況調査2021年4月末 (https://www.m2ri.jp/release/detail.html?id=490)(https://www.m2ri.jp/release/detail.html?id=490))(https://www.m2ri.jp/release/detail.html?id=490))
クラウド型の商材を提供している事業者としては、㈱マネーフォワードとfreee㈱という会社があります。両社は同じ頃に設立され、同じ頃に似たようなサービス提供を始めています。両社の市場をクラウド会計サービスと見れば市場の範囲は上の右側グラフの赤色の部分となり、両社はこの市場で顧客を奪い合う競合同士となります。
しかし、両社の市場を「PCを使って会計業務を行うPC利用型会計サービス」と見れば、市場の範囲は右側グラフの赤色と薄オレンジ色の部分とを合わせた範囲となります。赤色の「クラウド型」に比べてオレンジ色の「インストール型」が大きいのは、クラウド型はインストール型より新しい商材であり、まだ普及が進んでいないためです。
さらに市場を大きく「PC利用型」に限らない「個人事業主向けの会計サービス」で考えれば、上の図の左側グラフ全体の市場の中で、「PC利用型」市場は全体の35%を占めるに過ぎず、クラウド型会計サービスはわずか10%を占める小さな市場であることがわかります。
そこで㈱マネーフォワードやfreee㈱が、自社の市場を「クラウド型会計サービス」と見ずに「PC利用型会計サービス」として見れば、顧客の数(市場の大きさ)は2倍以上となります。自社は「個人事業主向けの会計サービス」市場にいると考えれば、顧客の数(市場の大きさ)は9倍にもなります。そうすると両社は「クラウド会計サービス」市場で競う競合同士という関係ではなく、「PC利用型会計サービス」市場において「インストール型会計サービス」を提供する事業者や「PCを利用しない会計サービス」を提供する事業者を競合企業とする「仲間同士」と考えることもできます。
≪小さな市場に留まるか大きな市場を見るか≫
このように市場の範囲を変えてみれば、自社の顧客の数や質、顧客単価、ライバルとなる企業(との関係)などが違ってみえてきます。自社の顧客(候補)が何人くらいいるのかということは、自社はどこまで売り上げを伸ばせるかということに関係します。また自社の競合企業が変われば、事業のやり方や販売の仕方も変える必要が出てきます。
小さな市場から出て大きな市場で事業をしようとすれば、より大きな市場で事業をしてきた事業者が競合となり、いままでより厳しい顧客獲得競争にさらされることになる可能性もあります。特に新しい商材を出した場合、その新しい商材がこれまでより良い商材で人気が出れば、自ら大きな市場に出ようと思っていなくても、たいていの場合は別の企業(特に、これまで競合と考えてこなかった知らない企業)が自社の商材と似た商材を出してきたりします。
そう考えると、新しくてよりよい商材を出した場合、小さな市場を見ているか視野を広げて大きな市場を見て知ってそこで闘えるようにするのかは、自社が自ら決意して大きい市場に出ていくのか、他社が自社の市場に入ってくることによって大きな市場に自社が引きずり出されるのかの違いになるのではないでしょうか。
私が知る範囲では、小さくとも優れた技術や商材を持つ事業者さまは少なくありません。そうした小さな事業者さまは、自分が見える範囲や知っている範囲の「小さな市場」のことは感覚的、経験的によく理解されています。一方でそうした事業者さまでも、自分がいる市場の特徴(市場規模や競合、顧客の特徴など)やその市場における自社の強みや弱みをうまく説明できなかったり、より大きな市場のことがわからず、より大きな企業の知らない企業と関わるようになってから苦労されたりすることがあります。
また、素敵な商材を持つ、つくれる事業者さんや起業家さんは、案外、経営や経営学に興味がないことも少なくありません。そのため当社のように経営者や起業家を支える「参謀」が必要とされると私は考えていますが、私たちのような「参謀」と起業家さんや社長さんのような経営トップとが経営について一定の知識を共有できていると、両者が上手く役割分担をして支え合えるように私は感じています。
当社は参謀サービス(Nurturing Corporation事業)を提供するとともに、自社の事業(Nurturing Living Being事業)開発もしておりますので、クライアントである事業者のみなさまと一緒に、ときに参謀として、ときに経営者仲間として、経営学の知見を学び、活用していければ幸いです。
2024/1/16記事掲載
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yowono
2024年1月15日
In 実践「経営学」
≪経営とは≫
会社は顧客に買ってもらえる商品やサービス(商材)をつくって売る事業組織です。別記事に(https://yowono.wixsite.com/thinkdo/forum/hui-she-jing-ying/hui-she-jing-ying-nokihon-shou-ru-zhi-chu-tosuruniha-huan-jing-gada-shi-toiuhanasi)書いた通り、会社を存続させるためには、商材をつくって売るためのコスト(支出)を商材を売ったことで得られる収益より少なくして、「支払うべきおカネ」が支払えるようにしておく必要があります。
「商材をつくって売って、支払うべきおカネが支払えるようにしておくこと」が会社の経営だといえます。
会社を経営すること=商材をつくって売って、支払うべきおカネが支払えるようにしておくこと、というと一見、簡単そうに思う方もおられるかもしれませんが、商材を売るためには①似たような商材との競争に負けずに「ちゃんと買ってもらえる」必要があります。また、②商顧客が必要とするとき商材を売るためには、顧客が必要とするとき(=需要に合わせて)商材をつくる「生産管理」や、③つくった商材を顧客に届ける販路の整備や管理も必要です。さらに、④「商材をつくって売って得たおカネ」と「商材をつくって売るのにかかったおカネ」を管理して「支払うべきおカネが支払えるようにしておく」ことも必要です。それから、⑤会社の活動が経済社会のルールや人倫に反さないようにすること(法令順守=コンプライアンス)も会社の経営に求められます。
≪会社の活動を研究する経営学≫
経営学では、会社を経営する上で必要な①~⑤といった会社の活動について、どういった活動の「型」があるのか、どういった「型」がどういった場合に上手くいったのかいかなかったか、それはなぜなのかといったことを研究しています。例えば、①の他社に負けない商材をつくることは「商品/事業開発」、他社の商材との競争に負けないようにしたりする活動は「市場(顧客獲得)競争」「マーケティング戦略」といったテーマで研究されています。②の生産管理や③の販路の整備や管理は「サプライチェーンマネジメント」「販売チャネル戦略」「事業組織(の構築・運営・管理)」というテーマで扱われます。④は「資本戦略」や「財務マネジメント」、⑤に関しては「リスクマネジメント」「情報戦略」「交渉戦略」といったテーマで研究がされています。
≪「経営学」はキライですか?≫
いま、私の周りにはご自身で「良い商材をつくって売って、支払うべきおカネが支払えるようにしている」、つまり、立派に経営されている方々がおられます。ところが彼らは経営学にはあまり関心を示されなかったりします。ご自身がちゃんと経営できていたり、経営学というと難しそうに感じられたりするためかもしれません。
上に書いた通り、経営学というのは、会社経営についてさまざまなやり方(型)を見出し、そうした「型」が功を奏したりそうしなかったりするメカニズム(経営理論)を説明してくれます。例えてみれば、さまざまな紐の結び方(=会社の事業活動のやり方)を研究して、「しっかりと結べてほどくときは簡単にほどける紐の結び方」にはどんな「結び方(型)」があるのか、その結び方がしっかり結べるのにほどくのは簡単なのかはなぜかを説明している、という感じでしょうか。
経営理論を学ぶ(知る)というのは、「しっかりと結べてほどくときは簡単にほどける紐の結び方」のパターンを学ぶ(知る)ようなものだと私は考えています。「しっかり結べて簡単に解ける紐の結び方」をいくつか知っていれば、知っていない場合に比べて、さまざまな場面や紐の種類に合わせて「しっかり結べて簡単にほどけるように紐を結ぶ」ことは簡単にできると私は思います。
ということで、私は経営学で見いだされたいろんな「結び方(経営理論)」を知りたいし、上手く使えるようになりたいと思っています。そこで、このフォーラムでは、さまざまな経営理論やそれをどのように使えるか、考えてみたいと思います。
なお、こちらのフォーラム記事は基本的に当社のクライアントさまや当社サービスのご利用をご検討くださる方々向けです。当社サービスをご利用いただく際、経営学の知見を共有できていると、クライアントさまの経営について多面的で深い議論がしやすくなると考えるためです。ただし私は経営学者ではありませんので、経営理論の解釈や説明を間違えることもあると思います。そうした間違いがある可能性も含めて、こちらの記事を読んで疑問を感じられたクライアントさまは、ご遠慮なくご質問いただければと思います。
2024/1/15記事掲載
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yowono
2024年1月14日
In 起業界隈のこと
私は四半世紀、特許の仕事に従事してきましたが、特許を取得しようとする人ですら多くの人が「特許は役に立つのか」という疑問を抱いていると感じます。特許が役に立つかどうかは端的に言えば「特許の“つくり”と“使い方”次第」であり、コンピューターが役に立つかどうかと似ていて、コンピューターにも特許にも役に立ちやすい環境とそうでない環境があります。
簡単に言うと、コンピューターでも特許でも、持ち主(の権利)が重んじられ、使用される場面が多い環境では役に立ちやすく、そうでない環境では役に立ちづらくなります。私見では、特許が最も役に立ちやすい環境は1980年代後半から現在に至る米国であり、同じ時期の日本は現在を含めて特許は役に立ちにくい環境だと考えています。
日本は1990年以降、米国の特許政策を採り入れてきましたが、日本と米国との環境の違いにはあまり注意が向けられていないように私は感じています。そもそも米国は憲法で発明者保護が謳われるほどに特許の発明者を尊びます。また、米国は「訴訟社会」と言われますがそれは日本に比べて訴訟を起こすハードルが低く、訴訟で勝った場合のメリットも大きい(米国の場合、賠償額が3倍になる制度があります)制度になっているためです。
(出典)知財紛争処理に関する基礎資料(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/tf_chiizai/dai2/sankousiryou05.pdf)(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/tf_chiizai/dai2/sankousiryou05.pdf))(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/tf_chiizai/dai2/sankousiryou05.pdf))
上の表は、賠償額が高額となった日米の特許訴訟案件を紹介していますが、賠償額は文字通りのケタ(2桁)違いです。また、被告(訴えられた側)は私でも知っている大企業が多いのに対して、原告(訴えた権利者側)の多くは被告ほど著名な企業ではありません。
米国において、特許権者が莫大な賠償金を得られるようになったのは1980年代後半の発明奨励政策(プロパテント政策)の結果であり、2000年代後半以降、行き過ぎが問題とされ見直しが進んでいるものの、「訴訟がしやすい」「3倍賠償制度で一攫千金の可能性がある」ことに変わりはありません。
このため米国では名もなき小さな企業が大きな企業を訴えて大金を得る可能性があり、1980年代後半から今に至るまで名もなき弁護士や弁理士、小さな企業が一獲千金を狙ってさまざまなやり方で特許を「使って」来た歴史があります。特に、新しい技術を用いた斬新な商品やサービスが新たな市場を形成する場合、新しい商品やサービスに用いられている技術に特許が取得されていれば、「特許を使う」機会も多くなります。
なお、昨今の商品やサービスには多数の新たな技術や特許が用いられており、中には「それほどでもない」技術について取得された「それほどでもない特許」も存在します。それでも、「それほどでもない特許」が市場を席巻している「すごい商品・サービス」に用いられていれば、「それほどでもない特許」の持ち主は、米国では日本より簡単に、より高い賠償金を、より高い確率で(権利者勝訴率は1990年代後半から2000年代で日本23%、米国は36%)狙うことができた歴史とそれを支えた風土や制度があります。
また別記事で(https://yowono.wixsite.com/thinkdo/forum/hui-she-jing-ying/jing-zheng-noxing-todu-zhan-nosiyasusanituite-2024-1-12)述べた通り、米国は日本に比べて企業買収(M&A)がしやすい文化風土や制度であるため、「すごい商品・サービス」を売って稼いでいる企業からすれば、「特にすごくもない特許」を振りかざす企業や特許は買ってしまった方が早い、安い、(事業戦略として)うまい、となります。
日本と米国のどちらが良いかはそれぞれ一長一短ですので、米国で特許が「役に立ちやすく」、日本では「役に立ちにくい」ことは良いとも悪いとも言えません。しかし、米国で特許訴訟により小さな企業が大きな企業から巨額の賠償金を得る背景には、米国と日本との文化風土や制度などの環境の違いがあり、米国の成功例をお手本にするためには日本と米国の違いを踏まえた工夫が必要でしょう。
そもそも米国が独占を推奨したり発明者を大切にするのは、米国が「エンクロージャー」を経験した英国民を中心とした欧州からの移民によって「開拓」された国であることも関係しているように思います。すなわち米国では「荒野を開拓した者が富を独占する」ことを是とする価値観がありますが、日本を含む米国以外の国では「開拓者が開拓地を囲い込んで富を独占する」ことは必ずしも是とされません。
国や地域にはその国や地域に特有の自然環境に適応するように営まれてきた人々の暮らしや価値観が染みついています。物資の流通や人の移動、経済がグローバル化する中、政策や企業の戦略を立案する人々はユニバーサルな思考や価値観を共有して国や地域を超えて交流する一方で、ある地域特有の暮らし方やそれを支える文化風土や仕組みなどに疎くなってしまうことがあります。
作家のカズオ・イシグロさんが東洋経済オンラインのインタビューで(https://toyokeizai.net/articles/-/414929)「俗に言うリベラルアーツ系、あるいはインテリ系の人々は、実はとても狭い世界の中で暮らしています。東京からパリ、ロサンゼルスなどを飛び回ってあたかも国際的に暮らしていると思いがちですが、実はどこへ行っても自分と似たような人たちとしか会っていないのです。 私は最近妻とよく、地域を超える「横の旅行」ではなく、同じ通りに住んでいる人がどういう人かをもっと深く知る「縦の旅行」が私たちには必要なのではないか、と話しています。自分の近くに住んでいる人でさえ、私とはまったく違う世界に住んでいることがあり、そういう人たちのことこそ知るべきなのです。」と述べています。
私自身、東京で特許の仕事をしていた頃は、所属や業界を超えて米国や首都圏の新事業創造や特許活用を論じる「横の交流」には積極的でした。一方で、自分が暮らす地域の人たちとの「縦の交流」は少ない暮らしをしていました。
しかし、東京を離れて大阪で暮らす中で、東京で働いていた時には感知できなかった「日本の文化風土」に触れるようになったことで、国や地域の人々に無意識に浸み込んでいる価値観や行動様式に注意が行くようになりました。そして、国や地域の文化風土の違いを考慮しない政策や戦略は功を奏さないという「環境適応性」という点から、政策や事業戦略の適合性を考えたいと考えるようになりました。
このカテゴリーの掲載記事は、こうした背景から書いており、これからも国や地域、業界の違いといった「環境の違い」を考慮しながら、事業や経営について検討していきたいと考えています。
2024/1/14記事掲載
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yowono
2024年1月13日
In 起業界隈のこと
日本では、2013年頃から2024年の現在に至るまで「ベンチャーブーム」と見られています。なぜ2013年頃からベンチャーブームが始まったとみられるのかというと、ベンチャー企業への投資金額が増えているためです(下のグラフ参照)。
(出典)林 龍平氏「国内スタートアップ資金調達動向と日本ベンチャーキャピタリスト協会の活動」https://lfb.mof.go.jp/kyusyu/content/000237159.pdf(https://lfb.mof.go.jp/kyusyu/content/000237159.pdf)
なお、グラフのタイトルは「スタートアップによる資金調達額金額推移」となっていますが、新しい商品や事業を提供する新興企業は「冒険する」という意味で「ベンチャー企業」と呼ばれてきました。「スタートアップ」というのは、「ベンチャー企業」のうち短期間で急激に成長する(スタートしていきなり業績が上向く)ベンチャー企業を意味する言葉ですので、ベンチャー企業であっても短期間で急激に成長した企業でない企業はここでは「スタートアップ」とは呼ばないようにしています。
≪Debt(デット)とEquity(エクイティ)とは?≫
ベンチャー企業であろうがなかろうが事業開始後すぐに収益が得られることはまずないため、事業を開始する際には収益が得られるまで食つなぐための資金が必要になります。事業を営む資金が不足する場合、一般的には銀行などの金融機関からの借入が行われます。この借入はカタカナ語で「Debt(デット)」と呼ばれますが、その名の通り、借入には返済義務(負うているもの=Debt)があり、通常は利子の支払いも求められます。
しかし、売れるかどうかわからない新商品や新サービスを売り出そうとするベンチャー企業の場合は、事業資金を貸し付けても返済できる見込みを立てづらいため、銀行のような金融機関からの借入を受けづらくなります。そこで登場するのが「投資」です。投資は、カタカナ語で「Equity(エクイティ)」と呼ばれるのですが、ベンチャー企業が投資を受ける場合、一般的には投資家に株式(Equity)を買ってもらうという形をとることによります。
ベンチャーキャピタル(投資家)は、持っているおカネでベンチャー企業の株式を買い(投資し)、会社が成長して株価が上昇すると、株価が上昇した分の利益を得ることができる、というわけです。投資は、基本的に返済義務がなく利子の支払いも求められません。投資において求められるのは、投資された資金を元手に事業を成長させて株価を上昇させることです。
VCと略されるベンチャーキャピタルというのは、ベンチャー向けの投資を行う投資家や機関です。ベンチャー企業に対する資金提供というのは、前述したとおり、銀行のようなしっかりとした金融機関が二の足を踏むような不確実性が高い(返済されるか怪しい)企業に対する資金提供です。このため一般的なベンチャー投資では、成功すれば投資した金額の何倍も何十倍もの株価上昇が期待されるようなベンチャー企業に投資しようとします。このようにベンチャー企業への投資というのは不確実性が高いハイリスクハイリターンであるため、VCは事業資金を融通する金融業の中では異色の存在となります。
≪ベンチャー投資における日米差≫
というように、ベンチャー企業に対する投資(VC)というのは金融業として特殊なのですが、ベンチャー企業に特化した資金提供という特殊な世界であればこそなお、ベンチャー企業の「支援」「育成」に関する日米の違いが見えたりします。
(出典)内閣官房(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/seicho/seichosenryakukaigi/dai8/siryou1.pdf)(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/seicho/seichosenryakukaigi/dai8/siryou1.pdf))(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/seicho/seichosenryakukaigi/dai8/siryou1.pdf))
上に掲げた図によれば2019年のベンチャー投資は日本が投資先1,400件、投資額2,200億円であり、平均値で見れば1件当たりの投資額は約1.5億円となります。対して米国では、投資先企業数は12,000件で投資額は15兆円とされているので平均すれば1件当たりの投資額は12.5億円となります。
物価も最低賃金も米国は日本より高いので、単純な比較はできないのですが、ベンチャー企業を立ち上げて経営する身として、投資先のVCとの間で「10年でゴール(M&AまたはIPOなどをする)」という約束で投資を受けた場合、この金額の差は次のような差に感じられます。
いかがでしょうか。
目標は、30kgの培養肉を100km先まで運んで3日で売りさばいて買付価格の3倍の売り上げを上げること。日本の場合、VCは目標達成のために1万5千円出す。対して、米国ではVCは12.5万円出す。
「30kgの培養肉」って、10kgの米袋3つ分ですよ!?これを100km先まで運んで3日で売りさばくというのはなかなか大変です。1.5万円出してもらったところで買えるのは電動でない自転車くらいで途中でパンクしたらダメかもしれません。米国であれば、12.5万円ありますから2~3人で分けて運んで売れるかもしれないし、一人でレンタカー使って移動しながら売れるかもしれない。そもそも新しい物好きの米国に対して、日本では得体のしれない新商品はなかなか売れません。
≪国策ベンチャーブームと新興企業の海外展開≫
これまで日本には、現在のベンチャーブームの前に2回または3回のベンチャーブームがあったとされています。第2次大戦が1945年に終わった後の1950年~1960年頃を第1次起業ブームとすると、第2次ベンチャーブームは1973年前後で日本電産(現ニデック、1973年)、セブンイレブン(1973年)やキーエンス(1974年)などが設立されています。その次の第3次ベンチャーブームは1990年前後からの2000年代始めと言われています。この第3次ベンチャーブームはまさに「失われた30年」の時代であり、米国ではGAFAMを構成する複数の新興企業が設立されており、日本でもソフトバンク(1986年)、楽天(1997年)やDeNA(1999年)などが設立されています。
ソフトバンク、楽天、DeNAは今や日本では立派な大企業であり、GoogleやFacebookが生まれた米国のように新興企業が生まれていない・・・と言わなくてもよいようにも思えます。しかし、第3次ベンチャーブームで設立された新興企業はほとんどがIT企業であるところ、日本のIT企業で世界で成功している企業はないと言われています。実際、海外売上高比率は、日本電産88%(2021年)、キーエンスは62%(2022年)、セブン&アイが7割超(2022年)であるのに対し、ソフトバンク8%(2022年)、楽天16%(2021年)といった具合です。
要するに日本では「失われた30年」の間、海外で事業をして稼げる新興企業が登場していない!ということで近年、国を挙げて起業を推奨しているのですが、日本と海外とでは文化風土が大きく違うため、事業の進め方、特にフィットする事業戦略は変わってくると私は考えています。この点については、機会を改めて書くことにします。
2024/1/13記事掲載
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yowono
2024年1月12日
In 起業界隈のこと
最近、日本では新興企業の育成や企業の活性化の必要性が度々、報じられ、新興企業を育成するためのさまざまな政策や取り組みが提案されたり実施されたりしています。起業活性化が論じられる際、日本経済はバブル経済崩壊以降30年に渡って停滞し続けてきた一方で、米国は日本に比べて起業が盛んで新興企業が台頭することによって経済社会が発展したことにしばしば言及されます。
上は日米中の国際競争力の推移と、主な新興企業の動きをプロットしたグラフです。バブル経済が崩壊した1991年、世界1位にランクされた日本の国際競争力は低迷を続け、一方で米国は1990年代から2000年代にかけて高いランキングを維持しています。米国経済が世界最強と位置づけられた1990年代から2000年代、日本経済が低迷し続けるのに対して、米国ではGAFAMとして知られるようになった企業が設立され急激な成長を遂げています。(なおGAFAMを構成する企業のうち、AppleとMicrosoftは1970年代の第2次ベンチャーブームの設立)
ところで日米経済の差が付いた1990年代から2010年代にかけて、日本では米国に倣った様々な産業振興政策が講じられてきました。
例えば、1980年に米国で成立した、大学や国家機関の研究成果の民間活用を促進する法律「バイドール法」の日本版「産業技術強化力法」は1999年に成立しています。1999年には、米国で1980年代の初めから採用されていた、発明を奨励する政策(プロパテント政策)も日本で始まりました。また、米国で1982年から始まった小規模企業を育成するための「スター誕生」制度(SBIR制度)も、「中小企業等経営強化法」という名称の日本版の制度として1999年から実施されてきました。
簡単に言えば、日本は約20年遅れで米国が講じた「起業活性化策」を講じてきたということです。けれども、米国では起業活性化策が講じられて15年程度で「成果」が現れ始めたのに、日本では米国で成功した起業活性化策を講じて20年を過ぎてもまだ米国のような成果が出ていない、というわけです。
こうした状況に対して、政府も近年、一部の制度の見直しなどをしています。例えば、SBIR制度については、山口栄一氏がご著作『イノベーションはなぜ途絶えたか』において、米国版と日本版(1999年施行の旧版)には下表のような違いがあることを指摘しておられます。
上の項目から順に説明すると、まず、米国のSBIR制度では政府機関がSBIR制度に参画しています。そして、SBIR制度に参画する政府機関が必要とする技術や製品などについて、科学技術に精通した科学行政官がSBIR制度で求める開発目標やニーズを設定します。これが「科学行政官による開発目標の設定」です。対して日本にはこうした調達目標を設定できる科学行政官はおらず、日本版SBIR制度は、政府機関のニーズに基づいた技術開発を民間の新興企業に求める制度にはなっていません。
次に「資金援助」については、米国のSBIR制度では科学行政官から提示されたニーズを満たした企業に「賞金」が与えられます。賞金の付与は3段階になっており、段階を経るごとに与えられる賞金も大きくなる方式となっています。一方で日本版SBIR制度は中小企業に対する補助金の交付制度に準じており、公的機関が示したテーマに対して企業が解決策を提案し、採択されれば補助事業を実施し、補助事業の実施後に補助金が交付されるスタイルとなっています。
最後の「販売援助」については、米国ではSBIR制度に参画している政府機関がSBIR制度を通じて技術や商品を調達することが義務付けられており、政府機関がSBIRの成果技術を購入する「最初の顧客」となることで市場づくりを支援します。しかし日本では、政府や公的機関が事業成果として創出された技術や商品を購入する「顧客」となって販売実績を与えることはしません。
ベンチャー企業を設立し経営している身として上記の違いは決定的というか、致命的であると感じます。日本でも米国でも資金が得られるのは開発を行った後であり、開発に要する資金を自分で用意する必要があるのは同じなのですが、米国では、提示された目標やニーズをクリアしたと認められれば賞金がもらえるのに対し、日本では補助金を申請した事業の範囲外とされた場合、受けられるはずの補助金が受けられないこともあります。そもそも日本では補助金を申請するために、事前に事業計画その他の書類の作成が必要であり審査に通る必要もあります。さらに補助金の申請が通った場合、補助事業に要した経費をしっかりと管理し、補助事業が終了した後には、補助金を受け取るために経費や成果報告も求められます。補助事業を実施するための管理コストは補助事業の2割程度になることもある上、経費の使途や補助事業の実施内容によっては補助金が出ないリスクもあります。それでいて、補助事業として実施した成果は政府や公的機関が調達することは予定されておらず、何なら「特許が取得されているように、特定の事業者しか実施できない仕様の製品やサービス」は公共事業から排除されることすらあります。
日本版SBIR制度については、上述した点などに問題があるとして2019年に見直しが検討され、見直しの方向性が示されています。「日本版SBIR制度の見直しについて」と題する資料には米国SBIR制度の特徴を下図のように整理し、日本版SBIR制度について「特定補助金等の交付を受けた中小企業者等に対する事業化支援を行う制度」としたうえで、イノベーション創出のための支援になっていないと述べています。
(出典)内閣府・中小企業庁 (https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/seidokadai/4kai/siryo4.pdf)(https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/seidokadai/4kai/siryo4.pdf))(https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/seidokadai/4kai/siryo4.pdf))
支援を受ける側から見た上述したような課題が是正されるのかは現時点では明確ではありませんが、米国の起業活性化策を模しつつ期待された効果を上げられていない政策は少なくありません。
例えば、起業活性化策の一つである「プロパテント政策」は、米国の文化風土や価値観を反映した特有の制度に対して、日本には米国とは異なる文化風土や制度があるため、米国版プロパテント政策を「輸入」したものの、特許の「有用性」や「使いで」が日本と米国とでは全く違ったものとなっています。
プロパテント政策を採用した日本と米国における「特許の効能」の違いについては、別記事で(https://yowono.wixsite.com/thinkdo/forum/hui-she-jing-ying/te-xu-hayi-nili-timasuka-2024-1-14)述べますが、SBIR制度にしてもプロパテント政策にしても、日本の既存の制度や仕組みの枠内で「米国流」ができるようにする、いわば「土台」は日本式のままで上物だけを「米国式」にしただけでは必ずしも期待された効果は出せず、「失われた30年」に講じられて効果を奏せていない産業振興策は「土台」からの見直す方がよいように感じています。
2024/1/12記事掲載
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yowono
2024年1月11日
In 起業界隈のこと
会社が商品やサービスを売る場合、たいていの場合は似た商品やサービスを売る他社が存在します。自社と似た商品やサービスを売る他社は、顧客を取り合う競争相手(競合企業)と位置付けられます。競合企業同士は、顧客を取り合うための競争(顧客獲得競争)をしますが、経営学では競合企業同士の顧客獲得競争にいくつかのスタイル(型)があることが見出されています。
経営学者の入山章栄氏はご著作の『世界標準の経営理論』の中で、「IO型」「チェンバレン型」「シュンペータ型」という競争の型を紹介しています。「IO型」の「IO」とはIndustrial Organization(産業構造)の頭文字で、「IO型の競争」というのは、自社が市場を独占できるように産業構造(IO)を変えようとする競争の型と説明されています。IO型の競争では、価格を下げてでも大きな(例えば半分以上の)市場シェアを確保したり、他社を買収したりして、自社が独占企業になることを目指します。一方、チェンバレン型の競争では、企業は独自のリソースを反映して商品やサービスを他社と「差別化」し、自社の商品やサービスを好む顧客を他社より多く確保しようと競争します。また、シュンペータ型の競争では、環境変化に対する適応力の高さで勝負します。
顧客を魚、企業を漁師とすれば、IO型の競争とは漁場に行く道に鍵をかけて自分だけが漁ができるような状況をつくり出すような競争です。チェンバレン型の競争では、他社がルアー(疑似餌)で漁をする横で自社は撒き餌をして漁をするといった競争が行われます。シュンペータ型の競争では、風がなければルアーで漁をし、風が吹けば撒き餌をして雨が降れば網を投げる、というように、状況の変化に応じて行動を変えることで顧客(魚)を多く得ようとします。
入山氏は、業界によってフィットする競争の型が異なると述べていますが、私は国によってIO型の競争が好まれる文化風土や制度と、チェンバレン型の競争に落ち着きやすい文化風土や制度があるように感じています。
例えば、日本の「独占禁止法」と米国の「反トラスト法」はどちらも競争政策という意味では「同じ」法律なのですが、米国の反トラスト法は独占を推奨するのに対し、日本の独占禁止法は弱者保護の色合いが強いそうです。このため、米国は日本に比べて独占的な地位を構築しやすくIO型の競争戦略が採られやすいのではないかと考えます。
20世紀の後半に設立されたGoogleは、有望な(つまり競合となりうる)企業を設立初期の「小さいうち」に買収してきました。Googleは設立後30年に満たない現在、巨大な独占企業として危険視されるようになっていますが、Googleが短期間で独占企業となったのは、「独占を推奨する」米国の風土において、他社を買収することでIO型環境を構築する事業戦略を採ったことが功を奏したと見ることができるでしょう。
また、米国ではベンチャー企業のゴールとしては他社による買収(M&A)が最も多いのも、米国では市場を独占するために他社を飲み込む(買収する)戦略が採りやすい、文化風土に合っていることが一因であると私は考えています。ちなみに、日本ではベンチャー企業のゴールは、株式公開つまり上場(IPO)または外部から調達した資金を戻す買戻しがほとんどであり、他社による買収(M&A)は少なく、米国とは真反対となっています(下図参照)。
(出典)日本政策投資銀行 今月のトピックス No.270-1 (https://www.dbj.jp/pdf/investigate/mo_report/0000170428_file3.pdf)(https://www.dbj.jp/pdf/investigate/mo_report/0000170428_file3.pdf)
日本では、米国に比べて巨大化する(あるいはした)ベンチャー企業が少ないと言われますが、そもそも日本は米国に比べて市場を独占する覇者を目指す戦略が採りにくい風土や制度を持っているとすれば、米国のような巨大企業は誕生しがたいのが当然かもしれません。
近時、日本で新興企業が台頭しない状況が問題とされ、国を挙げて起業が推奨されています。しかし、日本はバブル経済崩壊後の「失われた30年」の間、米国を範としたさまざまな政策を講じてきています。「失われた30年」に公示された産業振興政策は、近年、一部について見直しがされていますが、個人的には、日本固有の文化風土や既存の政策や制度といった「土壌」の上に米国の土壌で育った植物を植えて枯らしてしまったケースもあるように感じています。
「失われた30年」の間に講じられた日本の企業活性化策については、こちらを(https://yowono.wixsite.com/thinkdo/forum/hui-she-jing-ying/shi-wareta30-nian-noqi-ye-huo-xing-hua-ce-2024-1-12)ご覧ください。
2024/1/12記事掲載
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yowono
2024年1月11日
In 起業界隈のこと
「会社を経営する」ことの基本は「会社が倒産しないようにする」ことだと私は考えています。
では会社はどうなったら倒産するのかと言えば、「払うべきおカネを払えなくなった」場合、会社は倒産します。会社は、従業員や取引先、さらには金融機関などに対して、おカネを払わなければいけないときがあります。この「おカネを払わないといけない」ときに、おカネがなくておカネが払えないと、会社は倒産するというわけです。
そこで、会社にとっては「いつでも払うべきおカネを持っている状態」が好ましいわけですが、会社がおカネを持つためには、何らかの商品やサービスをつくって売って、その対価を受け取る必要があります。ここで、会社が売る商品やサービスをつくるためには、商品やサービスをつくるのに必要な材料を買ったり労働したりそのための場所を確保する必要があり、これらを確保するためのおカネ=支出が生じます。
そして、単純に言えば、「会社が商品やサービスを売って得た対価=収入」が「商品やサービスをつくるのに支払ったおカネ=支出」より多ければ、その差分は「収益」となり、会社はおカネを持てます。逆に、支出が収入を上回れば、会社のおカネはなくなり、会社は潰れるということになります。
そうすると、会社経営のキホンは
「何らかの商品やサービスをつくって売って、売上=収入が経費=支出以上になるようにすること」
つまり、収入≧支出とすること
だと言え、実に単純なことであるようにも思えてしまいます。
実際には、「買ってもらえる商品やサービス」は時代や場所で変化しますし、同じ商品やサービスを提供し続ける場合でも、それらを提供するための条件(原料の価格や調達先、輸送コストなど)も変化します。
ですから、「会社を経営する」ためには、常に、「買ってもらえる商品やサービス」や「それらをつくって売って収益を売る仕組み」の変化を理解し、対応する必要があります。
すなわち企業は「環境を理解」し、「環境変化に対応」する必要があります。経営学でも環境の理解と環境変化への対応が大切だと説かれていますが、「いま、自社が置かれている環境」と、それとは全く異なる環境との「違い」は意識されておらず、あまり語られていないように感じています。
例えば、経営学において顧客獲得競争にはいくつかのスタイルがあることが指摘されているのですが、米国と日本とでは価値観(文化風土)やそれを反映した制度に違いがあるため、市場シェアの大きな独占企業になる戦略(IO型の競争戦略)の「利き方」が違う可能性があります。また市場の成長段階や企業の規模に応じて適切な事業戦略は異なります。しかし、国や地域ごとの文化風土の違いや、市場の成長段階や企業規模に応じてどのような事業戦略を採ることが好ましいかについてはあまり整理されていないため、こちらのフォーラムでそうした「違い」を意識した会社経営や事業戦略について検討していきたいと考えています。
※顧客競争の型や日本と米国におけるIO型の競争の「利き方」の違いは、こちらの記事を(https://yowono.wixsite.com/thinkdo/forum/hui-she-jing-ying/shi-ye-huan-jing-nowei-i-jing-zheng-noxing-todu-zhan-2024-1-12)ご覧ください。
2024/1/11記事掲載
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yowono
2023年10月24日
In US KNOW Farm & Club for Member
US KNOW 高槻Firmでは、自然生態系における食物連鎖・有機物の分解・物質循環に関する知識をベースに、農作物栽培に必要な資材や労力を削減し「低コスト・高収益な農業」を実現することを目指しています。
・・・と書くと、何かスゴイことをやってるような印象を受けるかもしれませんが、要は「抜ける手は抜く」ということです😂。具体的な「手抜き」としては、黒いビニール(ビニールマルチ)を使わずに、除草した草で畝の土を覆ったり、前作の畝をそのまま使って「耕す」手間を減らしたりしています。
そんなわけで、US KNOW高槻Firmには植えていない野菜が生えていたり、やたら根性がある(風味が濃い)野菜が育っていたりします。
US KNOW高槻Firmは、全耕地面積の10%程度しかない「環境保全型農業」をしていて、栽培期間中無農薬で遺伝子組み換え作物や化学肥料も使わずに野菜を育てているので、その気になれば日本の全耕地面積の0.5%しかない「有機野菜」を名乗ってもよいのですが、US KNOW高槻Firmで育っている野菜は、「有機野菜」を名乗るようなマジメで優等生っぽい感じはしません!
植えた覚えがないキクイモ@高槻Firm
掘ってみたら小ぶりだけれどキレイ。
ということで、US KNOW 高槻Firmで勝手気ままに育っている野菜たちは「野良野菜」と書いて「ジビエ野菜」と呼ぶことにしているの(https://yowono.wixsite.com/us-know/forum/us-know-farm-club/us-know-gao-gui-zibieye-cai-you-ji-ye-cai-wu-nong-yao-ye-cai)ですが、夏前からにょきにょきと伸びてきた図太い雑草がもしやキクイモかも、と思って花が咲くまで待っていたところ、ビンゴ。
10月半ばを過ぎて2mを超えたキクイモが枯れてきたので、「収穫」してみたら小ぶりだけれどちゃんとしたキクイモが掘れました。天ぷらにしてみたところ、野良(ジビエ)野菜だけあって、香りが高いというか、自己主張が強めなキクイモさんですが、キクイモはイヌリンたっぷりのスーパーフードというのがウリなので、ちょっとくらい癖が強い方が高機能っぽく感じなくもない・・・?
大根、ニンジン、セロリ、ワケギ、ジャガイモなどなど、US KNOW高槻Firmでは「植えていないところに出てくる野菜」探しができますので、農業に関心がなくても宝探しがお好きな方が楽しめるかもしれません!
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yowono
2023年9月19日
In US KNOW Farm& Club for all
第1講座で(https://yowono.wixsite.com/thinkdo/forum/deisukatusiyon/di-1-jiang-zuo-nong-ye-noding-yi-tozhi-wu-nosheng-yu)、US KNOWでは「農業とは、植物が育ちやすい条件を整えること」と考えると書きました。
そこで、この講座では、「植物が育ちやすい条件を整える」こととして、US KNOWの畑部では、具体的にどんなことをすることかをお話しします。
ここで、US KNOW Firm & Clubは、メンバーが「自分でつくって食べることができる」ことをサポートする”「食べる」自立のトータルサポートサービス”をご提供する事業です。ということで、US KNOW Firm & Club畑部活動では、「知識と知恵と自然の力」を使うことで、できる限り必要なモノを減らして簡単な農作物栽培ができることを目指します。
具体的には当クラブでは、農作業を大きく「畝を立てる」「植え付ける」「手入する」「収穫して片付ける」の4作業に分け、これらの4作業を「鍬(くわ)」「鎌(かま)」「ハサミ」「スコップ」という4種類の単純な道具で行うことを基本とします。
下の図は、左から右に向かって植物を育てる生育段階順に4作業を並べた図です。
以下、これらの4作業の概要を、4道具のどれを使うかと共にご説明します。
①畝立て・・・使う道具は「鍬(くわ)」
農作物を育てる第一歩は「畝(うね)立て」。「畝」とは幅50-80cm程度、高さが10cm程度(水はけが悪い場合は20-30cm程度)の「盛り土」のことです。畝をつくることで、水はけをよくし、栽培場所とそうでない場所が区別できます。畝と畝の間は30cmくらいとして、畝の間を歩く一方、畝の上は歩かないようにすることで、作物を栽培している場所の土を踏み固めることを防げます。
一般的には、畝立てをする前後に堆肥やアルカリなどの土壌改良材を入れて耕しますが、US KNOWでは、畑はできる限り耕さずに、畝の上に刈り取った草や収穫残渣などを被覆材(マルチング材)として置いて、草や収穫残渣が腐って土に混ざって「土」ができる自然界の営みを模した「良い土づくり」をするようにしています。
②植え付ける・・・使う道具は「スコップ」
人間の赤ちゃんや小さな子どもは大人に比べると病気をしやすく、か弱い存在です。植物も同じで、発芽したばかりの芽や幼い苗は小さくて弱々しく、虫に食べられて消えてしまったりちょっとしたことで枯れたりします。このため、畝に種をまく「直播(じかまき)」ではなく、小さな容器に種をまいて苗を育てて、丈夫な苗を畝に植える「定植」から農作物栽培がスタートすることも多くなっています。苗を定植する場合は、畝に穴を掘り、育苗容器から抜いた苗を根っこを傷めないように埋めます。
一方、畝に種をまく場合のまき方には「点まき」「筋まき」「ばらまき」などがあり、作物によって適切なまき方が異なります。
出典:https://xn--m9jp4402bdtwxkd8n0a.com/tanemaki-4840.html(https://xn--m9jp4402bdtwxkd8n0a.com/tanemaki-4840.html)
③生育中の手入れ・・・主に使う道具は「ハサミ」「鎌」
密生している苗の一部を抜いて密度を下げる「間引き」、支柱やネットに茎やツルを結わえ付ける「誘引」、余分な葉や茎や実を取り除く「剪定/芽かき/摘果」、肥料を与える「追肥」、草を刈ったり抜いたりする「除草」、虫や寒さ・霜よけの布や草をかぶせる「被覆」といった作業があります。
④収穫と片づけ・・・使う道具は「ハサミ」「鎌」
食べごろを見定めて収穫します。収穫を終えた残渣は片づけて、次の作物栽培のための畝づくりをします。
US KNOW Firm & Clubの畑部では、上述した4作業を通じて「基本の4道具」を使いこなせるスキルや農作物栽培の知識、ノウハウを培います。
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yowono
2023年9月17日
In US KNOW Farm& Club for all
第5講座で(https://yowono.wixsite.com/thinkdo/forum/deisukatusiyon/di-5-jiang-zuo-fei-liao)は、肥料や土壌改良材といった土壌資材の分類や、肥料と土壌改良材の違いなどをお話ししました。
そこでこの講座では、土壌資材を使うための基本知識のお話をします。
まず最初に、土壌資材を使う目的は「良い土づくりをする」「育てている植物が必要とする物質を供給する」のどちらか、または両方です。土壌資材の中でも肥料を与えるということは、「植物が必要とする物質を供給する」、つまり、育てている植物が育つための「食事」を与えるようなことです。
ここで、人間でも体質や体格、成長の段階やその時々の体調によって必要な食事は違います。植物も同じで、成長の段階やその時々の状態によって、食事の与え方=施肥の仕方が変わってきます。特に植物が土に根を張り、土の中の根から養分を吸収する場合は、土の種類や状態というのは胃腸の状態のようなもので、土の種類や状態によって与えるとよい・悪い食事やその与え方が変わってきます。
例えば、土壌中の養分が植物にとって吸収しやすいかどうかはpHによって変わってきます(下図)。第3講座で(https://yowono.wixsite.com/thinkdo/forum/deisukatusiyon/di-3-jiang-zuo-tu)土壌のpHは人間にとっての体温に例えられていると説明しましたが、体温が「ちょうどいい範囲」にないと、食事をしても上手く消化吸収できないように、土壌のpHが「ちょうどいい範囲」にないとせっかく、肥料を与えてもうまく吸収することができません。
また、土壌の種類によってどの程度、養分を保持できるか、どの程度、養分が溜まっても大丈夫かも違ってきます。人間でも、年齢や体質によって代謝が違い、代謝が良い人は、少々、高カロリー、高栄養の食事をしても健康を維持できる一方、歳を取って代謝が落ちてカロリーや塩分が高い食事をすると健康を損なうのと似ています。
下の図は、そうした「体質=土壌の性質の違い」によって、施肥量を変化させる必要があること、その変化のさせ方を示した図です。
実際の施肥については、さらに、農地の履歴や作物の状態による施肥の調整が必要であり、第3講座で(https://yowono.wixsite.com/thinkdo/forum/deisukatusiyon/di-3-jiang-zuo-tu)書いた通り、「土づくりの専門家」による指導を受けながら、調整の仕方を覚えていくことが好ましいと考えます。
ただし、「土づくりの専門家」に丸投げするのではなく、日ごろから農地で作業し、作物を観察している栽培者自身が本講座でご説明している「植物を育てること」「土のこと」「肥料のこと」「肥料のやり方の基礎」を理解しておくと、「土づくりの専門家」の専門能力がより効果的に発揮されると思います。
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yowono
2023年9月17日
In US KNOW Farm& Club for all
第5講座では、肥料のお話をします。肥料というのは、植物が必要とする栄養を与える物質、言ってみれば植物にとっての食事やサプリメントのような物質です。肥料の多くは土の上に置いたり土の中に混ぜたりするため、「土壌に対して使う資材」という意味で「土壌資材」とも呼ばれます。
ただし「土壌資材=肥料」ではありません。土壌資材の中には、①植物に栄養を与える「肥料」(下図の画面左の円)と、②植物に栄養を与えない=肥料ではないけれど、「土」を良くする「土壌改良材(剤)」(下図の画面右の円)とがあり、さらに、③土壌改良もするし肥料にもなる物質(左の円と右の円の重なり部分)もあります。
日本では、肥料に関して「肥料の品質の確保等に関する法律(旧法律名は肥料取締法)」、土壌改良材(剤)について「地力増進法」という法律があります。前者は、品質がしっかりとした肥料が生産され、安心して購入できるように取引されるための法律であり、後者は地力を増進するための取組や制度と、地力を高める土壌改良材の品質を適切に表示するためのルールを定めています。
肥料は、植物が必要とする養分(窒素、リン、カリウムなど)を供給する食事やサプリメントのような物質ですので、肥料を使う側としてはどういった養分がどの程度の量、入っているのか、気になるところです。そこで、肥料については、肥料の製造者がどういった成分がどの程度入っているかを保証していれば、「保証票」をつけて「普通肥料」と呼ぶことができます。ただし肥料といっても、堆肥のように成分保証をすることが難しい物質もあります。このように、肥料になるけれど、その成分を保証することが難しい物質は、「保証票」のない「特殊肥料」として販売されます。一般的には、特殊肥料についても、おおよその成分を表示する「表示」はついていますが、特殊肥料の場合は成分の保証はされていません。
一般論としては、化学的に合成された土壌資材については成分を保証しやすい一方、堆肥や草木灰のようにさまざまな物質が含まれる天然(自然)の産物を土壌資材とする場合は、成分や利き方にムラが生じやすく成分保証が難しくなります。
「化学肥料」と呼ばれる肥料は、肥料となる物質を化学的な方法を用いて原料から精製したり合成したりして、必要な成分が設計した量だけ入っていて、設計した通りに溶け出る=効くように作られています。一方、「有機肥料」と呼ばれる肥料は、有機物を原料として化学的な処理をせずに自然の力で肥料にしているため、化学肥料に比べて成分や利き方がばらつきます。
「化学肥料」と「有機肥料」の違いは、前者は化学的に合成された栄養剤・サプリメント、後者は青汁やブルーベリー、スーパーフードといったような栄養価の高い食べ物との違い、と考えると両者の違いがイメージしやすいかもしれません。
栄養剤やサプリメントの中にも、化学合成されたビタミン剤のようなものもあれば、DHAのように天然物から成分を生成したものもあるように、化学肥料の中にも化学合成した成分でできているものもあれば、天然物を原料としてつくられたものもあります(下図参照)。
「化学肥料」というと、なんとなくよくない、というイメージを持つ方もおられますが、化学肥料を使うか有機肥料を使うかは、「栄養剤やサプリメントを摂るか」「栄養剤やサプリメントに頼らず、身体によい食品だけで身体作り・健康維持をするか」の違いのようなものです。人間でも、食事だけで体調管理や維持が難しい場合は、栄養剤やサプリメントや薬を使えばよいのと同じで、肥料も化学肥料と有機肥料のどちらが良くてどちらがダメ、というのではなく、上述した両者の特性や違いを理解して、土や植物の状態を見ながら上手く使い分けるとよいのではないでしょうか。
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yowono
2023年9月15日
In US KNOW Farm& Club for all
第3講座で(https://yowono.wixsite.com/thinkdo/forum/deisukatusiyon/di-3-jiang-zuo-tu)は、土の良し悪しを評価する観点として「物理性」「化学性」「生物性」があるというお話をしました。
土の物理性、化学性、生物性は、「土壌分析(または土壌診断)」により数値で評価できます。土壌分析をしてくれる事業者さんは何社もありますが、最も大規模に実施されているのは、やはりJAさんではないかと思います。
そのJAさんのホームページには、土壌診断サービスの内容や、診断結果に基づく「良い土にするための処方箋」(https://www.zennoh.or.jp/operation/hiryou/pdf/dojo_shohosen.pdf)見本などがupされています。
土壌診断は、人間でいうと健康診断のようなものです。人間の健康診断について、「身長」「体重」「体温」「血圧」測定など、日常的に自分でできる項目もあれば、コレステロール値だの尿酸値だの肝機能だの、専門機関で検診を受けないと測定できない項目があるように、土壌診断にも(測定機器を買って)日常的に栽培者が測定できる項目と、専門機関で分析してもらわないと測定できない項目があります。
最近は、「土づくり」は「土づくりの専門家に任せよう」というトレンドになっていて(土づくりの専門家制度についてはこちらな(https://minorasu.basf.co.jp/80383)どが参考になります)、栽培者自身が簡易に行う簡易診断と、人間ドッグのように専門機関による診断を受ける「二段構えの診断」が推奨されています(下図)。
上の図に示されている通り、土壌診断は「物理性」「化学性」「生物性」の3軸で行われます。ただし、物理性はそうそう簡単に変わるものではないため、一度測定すればその後、半年や一年ごとに測定されるものではありません。一方、化学性や生物性は常に変わると言ってもいいくらい変化しますが、生物性は現在、安価で簡易に測定することができません。また、生物性を評価したところで評価結果に基づいてすぐに確実に効果が得られる対応法も確立されていないため、生物性診断は一般的に普及していません。
これに対し、化学性の評価は広く普及しており、上に挙げた「処方箋」のように化学性の評価結果に基づいて何をすれば土壌の化学性がよくなるかという対策もある程度、一般化されています。土の化学性評価では、pHとECは必ずといっていいほど測定され、「本格診断」では、CECや窒素、リン、炭素の量や質についてもよく測定されます。
とはいえ、上に挙げたような化学性評価項目がそれぞれどのような意味を持つのか、その値はどの程度であればいいのかは、ガチのプロ農家でない限り、普通はわからないものです。
下の図は、土壌の化学性評価を理解する上で知っておいた方がいい評価項目とその項目の意味・イメージを説明した表です。
上の表に挙げた化学性評価項目のうち、pHとECについては数千円~数万円程度の測定機械が売られており、専門機関に分析してもらうことなく、土づくりのプロや農家自身で測定することができ、農家が自分で実施する簡易診断として測定することが推奨されています。
土壌が酸性に傾いている=pHが低い場合、土の粒子には水素イオンやアルミニウムイオンが多くくっつき、窒素やナトリウム、マグネシウムやカルシウムといった養分が土に保持されにくい状態となっています。
また、EC(電気伝導度)の値が高い土というのは、電気を通す物質=塩類が多く存在している土ということになります。農地の土に多く含まれる「塩類」の多くは、硝酸態窒素であり、ECは硝酸態窒素のたまり具合を見る指標と考えられています。
上の図に示す通り、pHが低く水素イオンだらけの土というのは、人間で言えば養分が吸収しづらく代謝が悪い状態であるため、pHは人間でいう体温のような指標だと説明されています。一方、ECは塩分濃度を表すため、ECが高い状態というのは、塩分の取り過ぎで血圧が高くなっているようなものだと説明されます。
知り合いの土づくりのプロによると、「土づくりは、丈夫で大きな胃袋をつくるようなもの」であり、「肥料をやるのは、栄養バランスが良い食事を、メタボや高血圧、食べすぎなどにならないよう与えるようなもの」といっていました。
第2講座で(https://yowono.wixsite.com/thinkdo/forum/deisukatusiyon/di-2-jiang-zuo-nong-zuo-ye-todao-ju)お話しした通り、土は地域地域で種類=性質が違い、また、どのような植物をどのように育てているかで土の状態は変わってくるため、「良い土づくり」「良い肥料の与え方」は、土の種類や地形、農地の使い方などによって調整する必要があります。
ですから、「土づくり」「施肥」は専門家の指導を受けて行うことが勧められるわけですが、「良い土」は、土の種類や地形に関わらず上の図や表に挙げたような項目が適正範囲にある土であることを栽培者自身が理解しておくことと、土づくりのプロとの良好な連携ができるように思います。
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yowono
2023年9月12日
In US KNOW Farm& Club for all
US KNOW Firm & Clubでは、「農業とは、作物が育つ条件にすること」と定義します。では、作物が育つ条件にするとはどういう条件にすればよいのでしょうか?
答えは、小学校で習う「植物は光合成をして育つ」という知識にあります。「植物は、根を張り、水と養分を吸収し、光合成をして育つ」生き物であり、「作物が光合成をする条件」を目指すことで植物が育つことを援けられます。
光合成とは、水や二酸化炭素といった「無機物」から「有機物」と呼ばれる炭素の化合物を合成する化学反応であり、無機物から有機物を合成できる生き物は「独立栄養生物」と呼ばれます。私たち人間を含む動物は、無機物から有機物を合成することができず、有機物を食べなければ生きられないため、「従属栄養生物」と呼ばれています。
植物は、「独立栄養生物」の代表であり私たち従属栄養生物の命を支えてくれています。その植物が有機物を合成する反応である光合成は植物の葉(にある葉緑体)で行われ、光と温度と二酸化炭素がどれくらいあるかによって光合成がどのくらいできるかが左右されます。
このように、植物は光合成をすることにより二酸化炭素と水から有機物を合成できるのですが、植物のからだをつくるためには二酸化炭素と水以外の物質(窒素やリンなど)が必要です。植物がからだをつくるために必要な、水(H2O)と二酸化炭素(CO2)以外の物質は「養分」と呼ばれ、窒素、リン、カリウムなどがあります(下図)。
養分のうち、窒素は植物の根や葉をつくり、リンは細胞分裂を援け、根を働かさせて葉や実を実らせます。また、カリウムは根や茎を強くして植物に抵抗力を与えます。植物は養分を体外から取り込む必要があり、基本的には根から水と一緒に養分を吸収します。植物が育つためには、からだをつくるための養分が不足せず、しっかりと光合成ができることが必要です。
つまり、植物は養分が必要なだけあって、光合成がしっかりとできればよく育つのであり、「作物(植物)が育つ条件にする」とは、「植物が必要とする養分が吸収できて、光合成がよくできる条件」にすればいいというわけです。
とはいえ、養分を与えすぎると植物がメタボになったり土壌が汚染されたりするため、植物の成長段階や特性、その時々の生育状態に応じて「植物が育ちやすい条件」というのは異なってきます。
US KNOWでは、「農業とは、植物が育ちやすい条件を整える」ことであるという考えのもと、育てている植物の成長段階や特性などに応じて「植物が育つ条件」がどのように違うかを実際に作物を育てながら、みなさまが「植物が育つ条件」を整えるために必要な知識や経験を得ることをお手伝いしています。
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yowono
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